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化物達の理想郷  作者: 同田貫
希望と絶望と
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天使と悪魔

天幕の中にも衛兵達が詰めており、急に現れた悪魔に狼狽していた。

あの頼れる隊長が首だけになっていたからだ。その首だけになった隊長を艶めかしく撫でている目の前の人外。

仇とばかりに斬りかかった仲間は、一人は首が一回転した状態で倒れ、もう一人は胸に大きな穴を開けて息絶えていた。魔術などではなく素手だけで。


悪魔は、天幕の中を見回してせせら嗤っている。

将軍達や衛兵達は、その場で立ち竦み動けずにいたのだが、唯一人悪魔を睨みつけ罵声をあげる者がいた。

皇国の生き残りであり、唯一の皇族であるアン皇女だった。


「その者を離せ悪魔、なぜそんな理不尽な真似ができる?お前達はこの世界の害悪でしかない。他者を傷つけ、不幸をばら撒き、災厄そのものだ。死者を冒涜するなんて恥をしれ!」


「あらあら不思議なことを言うのね。別に私は冒涜なんてしてないわ、これこそまさに、生より解放されたあるべき姿だとは思わない?いかなる生物であれ死からは逃げられないの、不変なものなんて存在しないわ!それに貴方、なかなか良い目をしているわ。恨みや妬みに染まり、自身を呪い、私達に復讐を決意しているそんな感じだわ。全ての人族にそんな瞳をさせたいね〜」


紫髪の小柄な悪魔は、まるで講義するかのように、自論を展開してゆく。

その間にもエンリエッサが持つ衛兵隊長の首からは、絶え間なく血が滴り落ち、床に赤い染みをつけている。


残りの衛兵隊も、身が竦んで動けない。

あの悪魔に殺される…


「お前達は私から様々なものを奪った。愛する家族、親しくしてくれた友人、多くの皇国民達、住むべき土地に、産まれた故郷全てよ。一瞬にして全てよこの外道地獄に堕ちろ、許さないから…私は絶対に、お前ら魔族を…」


皇女の台詞を聞いた途端に、エンリエッサは満面の笑みを浮かべ、残酷な考えが頭をよぎり、皇女に向けて言い放つ。


気丈な皇女はどんな顔をするか?

勝気な表情は崩れるのか?


「あはははは、面白いわ貴方とっても興味深いわ。貴方まさか皇族の生き残りなの?じゃああの三人の聖人ともお知り合いかしら?どんな最期か知りたい?私が、懇切丁寧に教えてあげるわ!根掘り葉掘りね…」


途端にアン皇女の顔が曇る、自分に優しく接してくれた三人の聖人達。

中央教会から派遣され、知り合いや友人の少ない離宮暮らしの皇女に、時間がないと言いつつおべっかをかいてくれた気さくな人達。

自分の両親と同じぐらいに大事に想っていた人達はもういない。気丈に振る舞おうにも、口がうまく回らない。


「なっ、なんで、どうして?」


「アイズって奴は剣で串刺しにされて、胸から血が噴水みたいに噴き出ていたの。びくびく痙攣していて、陸に打ち上げられた魚みたいだったよ。フランチェスカって奴はもっと悲惨だったかな、御使いのリーゼ様に蒸し焼きにされたんだよ。ゆっくりゆっくり焼かれる気分はどーだったんだろうね?それからボルドーって人はね…」


エンリエッサの吐く息が皇女にかかる。

いつの間にかアン皇女の背後に回り、皇女の耳元で囁くように話していた。


首には悪魔の細腕が絡み、満足に身体を動かす事ができないでいた。


「やめてっ聞きたくない!やめてやめて、私は知りたくないっ!嫌だ…」


エンリエッサの弑逆心が加速する、次はどうしよう?衰弱した人間を眺めるのは楽しい楽しい娯楽に等しい。


「…ん?珍客かしらね」


エンリエッサが皇女から離れ独り言を呟きながらに、何もない空間を凝視する。

そこに突如、清廉な気配が天幕に満ち溢れ天使ナナイが顕現した。


「エンリエッサ、悪趣味だな。人族の守護者として今此処で天魔戦争の時の決着をつけてもいいのよ?早々に立ち去りなさい亡霊め!敬虔なる光の信徒は、私が守る!」


「ふん、覗きなんてして。けどねナナイそれはこっちの台詞だよ。亡き主人アスモデウム様の無念を晴らすいい機会よ。ただ決着はここじゃない、もっと大勢で殺し殺され合いをしましょう。世界を白か黒かを決める記念日にしたいものね。では、今宵はこれで皆様方。また戦場で会いましょう…」


その場から煙のようにエンリエッサが消えると、辺りに安堵する空気が広がっていく。

あまりに規格外の怪物、あんな者とどう対峙しろというのか?


エンリエッサが消えた後には、衛兵隊長の首だけが残され、生き残りの衛兵が布で丁寧に包装し、冥福を祈る。


将軍達とともに脱力していたアン皇女は、ナナイの方へ向き謝辞を述べる。


「助かりましたナナイ様、自分の心が恐怖に覆われていて、私はあの悪魔になにも出来ませんでした」


「良いのですよアン皇女、あやつは旧き悪魔のエンリエッサ。対抗できる者の方が少ない、私達の仇敵であり魔族の指導者の一柱です。決して恥じる事はありませんよ、むしろ誇るべきです」

「はいっありがとうございます!」


「ナナイ様が現れたということは、まさか勇者様がこの地に遠征に来てくださるのか?」


「ええっ、勇者に御告げをだしました。近隣にいる聖人達も集めています、魔族達に安住の地はないのです。まずはこの地の解放からですね」



事態は加速度的に動き出し、元皇国の土地で大軍同士の会戦が始まりを告げようとしていた。

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