旧き悪魔
エンリエッサがこのローガルドに到着したのは、ローガルドから伝令が到着したその日であった。
リーゼへの条約締結の報告をしてから数日後、東部国境線に異常あり至急応援されたしという連絡を受け、応援の部隊を編成しローガルドに向かわせた後、リーゼガルドに設置してある転移魔法陣を使いローガルドに到着した。
この転送魔法陣は、ローガルド、リーゼガルド、イールガルのそれぞれ1つずつ設置された特別な装置であり、秘中の秘であり秘匿されたものであった。
しかし万能というわけではなく、魔法陣同士の往来を可能にするだけであり、使用者に莫大な魔力消費を強いる。
今回一緒に転移したのは七名で、エンリエッサ本人を除くとリビングデッドが五名と、ローガルドからの伝令を含めた七名であった。
留守役にはマトをはじめとした弟子達と、レジーナを残してきた。
そんな事情できたエンリエッサは、今連合軍の天幕の並ぶ野営地を悠々と歩いていた。
中には、大勢の兵士達がおり今日の戦果や、いかに自分が勇敢に戦ったなど、雑多な会話が聞こえる。
しかし不思議なことに、誰一人としてエンリエッサ気づく者がいない。
それどころか、気配や存在が希薄となっているような様子だった。
やがて一際大きな天幕の前で術を解除すると、にわかに天幕周辺は、警備兵で充満した。
ただし、解除したのは自分と天幕を中心とした限定的なものであり、その周囲はなにもないような喧騒であった。
「貴様、どこから入った!いやっどこから現れた。ここをどこと心得るか、この場所はお前の…よな……ガフッ…」
「うるさいわよ、キャンキャン吠えないで耳が痛いじゃない。貴方の許可なんて必要ないでしょ?私はここの人に挨拶しにきただけだしさ」
「敵だっー!敵襲だ全員備えろ、武器を持て。将軍達を守れ!」
「…⁉︎」
警戒の笛を散々に鳴らしたのに異常に気づいているのは、笛を鳴らした本人と他数人のみで辺りは呑気に酒盛りや、夕食をしていた。
「なんだこれは、なぜ皆異常に気付かないんだ?お前なにをした?ただの魔族ではない…」
ゾンッ!
「あんた達に皆興味がないのよ、生きようが死のうがね。だから私がそんないらない貴方達を静かにさせてあげるわ。ずっとね…」
バキュ、グチャグチャ…
ベチャリッ!
「自分の手で打ち倒すの悪くないね、たまには素手もいいもんだ、さてさてこれをお土産にしようかな」
「こんばんは皆様方、月が綺麗ね」
「ここはこのローガルドと呼ばれる要塞線を力攻めで攻め、勢いそのままに元ポリーウット城塞を墜とせば、あとはあのイリトバ城塞のみだ。退却を続ける魔族を追い詰める好機かと?」
「希望的な観測はよせ、敵はそのローガルドに戦力を集めている。リーゼガルドと呼ばれる都市や山脈方面より援軍が出撃したとの報告があがっている。力攻めを避け、敵を誘い出し会戦にて勝負をつけるべきだ」
「左様ですな、敵の総数が不明な以上大きな賭けは避けるべきだ。これ以上は兵站線が伸びきり、補給もままならなくなるぞ!それだけは…」
ピッーー!ピッーー!
突然敵襲を告げる呼び笛が鳴り響き、あたりに緊迫した空気が流れるが、不気味な音が鳴り再び辺りは静寂に包まれた。
何者かの足音のみが聞こえ、徐々に近づくにつれまるで気温が下がるような錯覚を将軍達は覚えた。
やがて天幕の入り口が開くと、そこにその元凶が立っていた。
紫色の髪をツインテールの様に纏め、黒いローブには髑髏の紋様が刻まれおり、背中からは禍々しい羽を生やした悪魔がそこにいた。
手には警備隊長であった騎士の首を持ち、愛おしそうに撫でながら天幕の中を見回していた…




