幕間 王子達と使節団(後編)
一行は道中、宿場町などを中継しながら都市リーゼガルドを目指していた。
やがて人の住む街や村がまばらになると。街道を遮るように巨大な要塞が姿を現した。リーゼガルドより後に建築された新造の魔族側の防衛拠点。
今はローガルドと名付けられ、占領地域の統治と警備を任された第二軍団の兵站基地のようになっていた。
王子達二人や側仕えの者達は、眼を輝かせながら辺りの様子を見ていた。
道沿いの沿道ではゴブリンやオークが田畑を耕し、魔族の駅馬車が通りを往来している。
「白の双頭の鷲のマーク、王国の使節団の方々ですね連絡はきております。お待ちしておりましたどうぞお通り下さい!」
「開門っー!開門せよ」
筋骨隆々の獣人の吠えるような叫び声に対応するように、左右にいる巨人達が巨大な城門を内側に開いていった。
「うわぁ巨人だ大っきいね兄様、あっちの人は獣人の方だね初めて見たよ。頭の形が虎だよ!とても雄々しいね、彼らも僕らも、同じ大陸に住まう友人だよね!」
「あぁそうだねルウィン、こんなに巨大な建築物は少し前まではなかったはずだ。我ら人と変わらない日常を彼らも送っているのだな爺よ」
楽し気な兄弟の会話に、相槌を打ちながらも、今日何度目かわからない進言をする爺や。
あまりのしつこさにエドガーとルウィン表情は途端に曇る。
「左様でございますな殿下」
「ただ殿下方、これだけは覚えていて下され!魔族とは原来我々とは違う種族なのです、あまり心を開き過ぎないよう重ねてお願いする次第でございますぞ」
「わかった、わかった爺よ!」
「爺やの話は長いんだよ…ぶー」
それぞれが感想を述べている間にも馬車は進み、ついに目的地であるリーゼガルドに到着した。
居並ぶ兵士達は、隊旗や槍を掲げ王国側の使節団を出迎えた。
対話の場として、城内の応接室に案内された一行はやや緊張した面持ちで都市の責任者、エンリエッサと対面の時をむかえていた。
「ようこそリーゼガルドへ、王子様方まずは楽になさって下さいな。私は業魔将のエンリエッサという者だ。条約の件は大変に喜ばしいことだ、我が主人であるリーゼ様もお喜びに違いない。今後とも良き関係を築けるように切に願うよ。滞在中は我らが都市をご案内しよう。マト、頼めるかしら?」
「はい、エンリエッサ様お任せを」
「よろしくお願いします、マトさん。まずは中央通りなどを視察したいのですが構いませんか?」
「お久しぶりでございます殿下。ええ構いませんよ、色々とご案内いたしますね」
それからは王子達は、視察というよりかは観光のような格好となっていた。
近衛の騎士達は、リビングデッド達と練兵場で訓練に明け暮れ、第二王子のルウィンは、レジーナ達との空中散歩にとてもご満悦で自分の乗っているグリフォンに名前までつけていた。
側仕えの者達も、エンリエッサの弟子達とトランプで盛り上がっていた。
カード賭博というグレーなゲームで
「レートを上げますか?次はこの蒸留酒とツマミをかけてもう一勝負!」
「引き際も大事だと思いますが、まぁなんでもいいですがね楽しければ!」
「その辺にしたら?賭博のこと、エンリエッサ様にばらしてもいいの?」
「「…っ⁉︎」」
急な幕切れとなった賭博会場となっていた宿屋の一室では、一人の弟子のジト目による無言の圧力により閉会した。
次回開催はまったくの未定のまま。
夕暮れ刻、リーゼガルドの街並みが茜色に染まる頃、歩き疲れたマトとエドガーの二人は帰途に着いていた。
今は時計台の下の広場を通る途中、不意にエドガーはマトに声をかける。
「マトさん、この髪飾りを受け取って下さい。私の心は貴方に夢中なのです。聞き届けてはくれませんか?」
「私にですか?」
突然のことに戸惑うマト、エドガーの表情は真剣そのものであり、無下に断るのは失礼にあたると考えたマトは、王子に対してその返事をすることにした。
「殿下、私と殿下とでは同じ刻を歩めませんよ。私は人間でいえばとっくにおばあちゃんなんですよ。もっと素敵な女性を見つけて下さい。私より他の女性を幸せにしたほうが有意義かと存じます…」
「貴方を幸せにしたい!それが理由では駄目ですか?まだ私は十代半ばの子供ですが、貴方に相応しい男になるつもりです!」
「私はあきらめませんよマトさん、王家の男子はしつこい性分なのですよ。必ず貴方を振り向かせます!」
「全く頑固な人ね…」
「そ、それで?私は貴方が立派な男になるまであと何年待てばいいのかしら?」
「それは、そうすぐです!」
「ふーんすぐねぇ?漠然とした答えね。それでは私待ってないかもよエドガー?それでもいいなら待ってるわ、貴方が素敵な男性になって、気持ちが変わらないならまた口説いてみせてよ!ね、…エドガー?」
みるみるうちに顔が赤くなる二人、夕陽のせいにはできないほど紅潮していた。
言っているうちに照れたようだ。
「策士策に溺れる、ということかしら?」
「そーですね姉様、顔真っ赤ですし」
水晶球で盗み見していた二人は、意外な一面に驚きながらも静かに二人を見守っていた。




