赤き血が点々と
一面に広がる草原の中、空中に幾何学的な魔方陣の紋様が浮かび、燃えるような緋色の髪色をした悪魔がこの世に産声をあげた。
ゆっくりと瞳を動かしながら、辺りを見回す。そこは何もない、風がたなびく草原のど真ん中であった。
この世に顕現した化身のリーゼは、まずは目的地であるロート山脈を目指しながら目につく障害を排除しつつ向かうことに決めた。
軍服のような衣装に身を包み、その上からは黒いローブを羽織り徒歩で移動をしていた。
羽根は背中に隠しているが、凶悪なツノはそのままに初めての大地を踏みしめるようにとても機嫌が良いのか鼻歌まじりに歩いていた。辺りを見回し、景色を見ながらまるで散歩するかのように。
彼女が神より授かった能力は自身の魔力を炎へと転じさせる発火能力であり、原初の能力とも呼ばれる強力な能力であった。
歩きながら自身の体温を上げ、地表に焦げ跡を作り出しながら獲物を求めてさまよっていた。しかし、肝心の発火が上手くいかず一人悪戦苦闘していた。
「出ろっ!」
「燃えろ!」
言葉をだしながら手をかざしたり、構えたりしながら試行錯誤を繰り返す。
しかしいっこうに火は出ず、時間だけが過ぎていく中一つの考えを閃いた。自分を種火のように考え、そこから火を灯すようなイメージをする。
すると、指の先から僅かに小さな火が灯った。気分を良くしたリーゼは、そこから更に巨大な火を両手に出したり、自身を包むように火柱を上げたり、火球を飛ばしたりと色々な慣熟訓練を行っていた。
ひとしきり原初の能力で火遊びを行ったリーゼは、やがと草原の近くにポツンとある村を発見した。
その村の外れにある畑にいる、一人の村人におもむろに話しかけた。
「ねぇ、あなた達人は死んだらどこに行くの?光の神の元に旅立つの?それとも肉体を脱ぎ捨てて、新たな存在へと転生を繰り返すの?教えてくれるかしら」
突然緋色の髪色の可憐な女性に突拍子もない事を聞かれた。頭からは角が生えていることから亜人の子かと考え動揺していた青年だがやがて
「さぁてね…できれば光の神様のもとに召されたいが、闇の神のもとにはいきたくないなぁ、魂を抜かれて地獄に落とされるなんて僕はごめんだね」
とぼやく青年を見てリーゼは頷くと、
「心配しなくても大丈夫よ、だって貴方これから私が魂ごと食べて私自らの糧として有効活用してあげるんだもの。私の原初の能力の実験の第一号よ、貴方はとっても運がいいわ、我が父の理想の初めの一歩ね!」
不意に不気味な事を呟く存在に警戒している若者に、手を伸ばし、青年に手を当てると青年の身体の血を沸騰させその身体を爆散させた。上半身から上は消し飛び、地上に赤い花を作り出した。
下半身は綺麗な形のまま…
突然の出来事に村人達は固まるが、やがて我先にと逃げだし始めた。
悪魔の襲来にこの村の自警団達が果敢に攻めかかるが、爆散した死体が量産されるだけであった。ある者は生きながらに火だるまにされ、またある者は蒸発した身体を黒いシミのように影を残した。
「なんだこいつはっ!」
「こんな村になんで悪魔なんか」
リーゼの身体を弓矢で射抜こうとしても矢が溶けだし、剣にいたっては触れた先から蒸発した。
やがて自警団がいなくなるとリーゼは目標を逃げ惑う人々に狙いを定め、何十何百ともいえる火球を乱れ撃ちに解き放った。
まるで紅い雨のように村一帯は、紅蓮の炎に焼かれていった。
「悪魔じゃ悪魔がぁっ…あぁぁあ…」
「嫌だよ…いや…い…や……」
「助けて水を誰か…み…ず…」
辺りは真っ暗な焼死体の焼ける匂いが立ち込め、建物にも飛び火して無惨に燃え広がっていた。平和な村だった景色は、まるで戦場のようなものになっていた。
「どうしてこんな事するの?わ…私達はただ生きたいだけなのに…」
「なんでだろうね?貴方達が人族だからかしらね。理由なんてないのよ」
短い問答をした相手を焼き、動き回る者がいなくなると、最後の仕上げとばかりに大空に舞い上がり極大の火炎球を村のあった場所に放り投げ、巨大な爆心地のようなクレーターを作り出した。
「さぁ次にいこうかしらね。もう少し次は噛みごたえがあると嬉しいな。これじゃあ消化不良よ。全然足りないわ。そうまだよ…もっとこの熱を感じたい。」
「せっかく慣れてきたんだしね」
そう言いながらリーゼは、微笑みながらさらなる獲物を求めて辺り一帯に村であった場所にクレーターを量産していった。
ようやく満足した頃には、日が沈み辺りは夕闇に照らされた血の跡が赤黒いシミを浮かべていた。
城塞都市の衛兵が後ろの村々からドス黒い黒煙をいくつも見つけ警戒の鐘を打ち鳴らす頃には、彼女の姿はすぐそこまで迫っていた。
「我が父、見ていてくださいね御約束通りここに巨大な篝火を灯してご覧にいれます。この火を今まで犠牲となった魔族の鎮魂にあて、我らの新たな門出といたすことにします。」




