幕間 王子達と使節団(前編)
王国に魔族の使節団が来訪して半年が過ぎた頃、国王の息子エドガー王子は、魔族の使節団の代表マトのことを想っていた。あの凜とした佇まいにまさに虜となってしまっていた。
その下にいる弟の第二王子、ルウィン王子もまたレジーナと一緒にグリフォンに跨り行った空中散歩が忘れられず、兄同様日々の勉学や政務に身が入らない状況となっていた。
「ルウィン様!エドガー様!先程説明した箇所、お聞きになっておられましたか?いけませんよ、ここ数ヶ月てんでうわの空ではないですか嘆かわしいですよ!」
「ん?いやいや聴いていたさ、なぁルウィンも聴いていただろ?」
「もちろんさ先生!」
お付きの家庭教師の講義中、目が泳いでいたことを見抜かれ、あからさまに狼狽する二人の王子達に不満気な家庭教師。
聡明なのは確かなのだが、最近は露骨に手を抜く癖がでている。
なんとかしなければ…
家庭教師の教鞭が激しさを増すが、彼らの熱意は右肩下がりのままだった。
それはなにも王子達だけではなく、王都在住の一部の兵達や家臣達も同様であり、使節団にいた好きな女性のタイプで熱い議論が繰り返されていた。
王城の食堂や広間、城下にある酒場などの社交場まで話題の中心となっていた。
「私は断然マトさん派だよ。あの微笑みがなによりも可憐じゃないか。色々と苦労された中で、成熟した美しさがなぁ…可憐だ」
「お前は爺さんかよ!」
「わかってないなぁ、武官のレジーナさんこそ真に見るべき存在だよ。口下手な感じもするけどチャーミングだよ」
「自分は護衛の中にいた青白い肌の方かな。確か…仲間の方がいっていたのは、ハッポさんだったかな?無口だったけど優しい雰囲気だったよ!きっといい奥さんになるに違いない断言してもいい!」
「いいや俺はラタニアちゃんだね。ここは譲れないな、ラタニアちゃんはまだ成長という可能性がだな…」
「危険な奴がいるぞ!おい憲兵隊を呼べ、反体制派のシンパがいるぞー」
「馬鹿いうなよまったく…」
隣国の王族や来賓があってもここまでの騒ぎにはならなかった。いまや四大派閥が形成され、食堂などで密かに人気投票を開催されていたりもする。
みかねた国王は、王妃の反対を押し切り親善大使として使節団の派遣を決定した。人数はこちらも相手方の人数にあわせて十人とした。
その時の兄弟の喜びようといったら、弟のルウィンは小躍りしながら廊下や部屋を駆け回り、兄のエドガーも落ち着きなく部屋の中でそわそわしていた。
普段見ない兄弟の様子に反対していた王妃も笑いながら眺めていた。
国王もそんな様子に思わず笑みがこぼれる。しかしと国王は思う、腹心の昔馴染みの宮廷魔導士の爺を呼び、使節団のことを頼んでいた。
「爺よわしは不安じゃ。なにもないにこしたことはないが、あやつら兄弟はまだ若い。一時の刹那的な感情に囚われることは必ずしも誤りではないのだが…」
「陛下、私が付き添います故どうかご安心を。私もあの会談中に感じた違和感が拭えないのでございます。なにもなければ杞憂であったと笑えば済むのですが」
国王は息子達が魔族に淡い恋心を抱いているのを危惧し、顔馴染みの爺にブレーキ役を任せたつもりでいた。
逆に爺は、そのままの意味で魔族達の術中にはまらないように警戒しろという意味で、国王の言葉を解釈した。
互いにずれた考えのまま出発の当日となり、にわかに城内や王都内外は親善大使一行を見送る喧騒に包まれていた。
使節団の内訳は、代表にエドガー王子とルウィン王子、お目付役に魔導士の爺、護衛には近衛の精鋭四人に、身の回りの世話をする執事やメイドが三名といった構成だった。
全員が王家の色とされる白を基調とする礼服に身を包んでいた。
「こらこらルウィン、あまり走ると危ないわよ。あちらの方々に失礼のないようにね。エドガー貴方もよ、少しは落ち着きなさい。緊張感は周りにも伝わります、弟よりも年長者なんだからもっと堂々となさい」
「わかっていますでは陛下いってきます」
「お土産もらってくるよ母様」
「引率はお任せを陛下」
「うむ爺よ任せたぞ、お前達もしっかりなこれは政務であるからな。遊びではないのだぞ、よいな?」
途端に真顔になり頷く王子達、しかし数分後にはまた、だらしない表情に戻ってしまっていた。
王国の紋章のはいった三台の白い馬車が、魔族の都市リーゼガルドを目指しゆっくりと旅立っていった。
離れていく車列を見ながら、国王と王妃は王子達の旅の安全を祈っていた。




