帰郷
客間にいる暗殺者達は不可解な光景に混乱していた。
他の隊の援護が不透明な中、突出した形となったが我々は客間に奇襲を仕掛けたはずだった。
部屋の中には、鍋の蓋を被り綿棒や包丁、箒などで武装している使用人達を確認した。
目は動くのに身体の自由がきかない。
三つ目の魔族の【動くな】という一言に、まるで金縛りにでもあったように立ち竦んでいた。
マト達のいる客間に暗殺者達が殺到したのはつい先程であった。
天井裏や扉、窓から雪崩れ込んだ数人の暗殺者達が今も小刻みに震えて立ち止まっていた。
使用人達が覚悟を決めた矢先に、部屋の中で起きた出来事に理解がおいついていないのが現状であった。
【どう、自分達の身体の自由がきかない気分は?私が今から聞くことに正直に答えなさい。さもないと…】
同僚の一人の暗殺者が倒れ、身体全体が痙攣しだしやがて絶命した。
三つ目の魔族は、笑みを浮かべたまま動けぬ暗殺者達に質問した。
「貴方達にも様々な主義主張があるのは知っている。ただ誰の指示でここを襲ったの?王国の人間にしては不自然だから、帝国か他の国の差し金か。私達がここに来たという事実を存在ごと消し去り、それを種に王国の上層部をゆするとか考えてるでしょう?貴方達の雇い主の筋書きでは」
「ふん、安易に答えるもの…」
言いかけた暗殺者の同僚が、不意に真後ろに倒れ込みそのまま二度と起き上がらなかった。
マトが暗殺者の一人に、呪力を込めた言霊をつぶやいたためである。
三つ目の瞳が怪しい光を放ちながら。
「正直に話せば楽にしてあげるよ?ただ粘れば粘るほどその分苦痛が長引くだけなんだけどね。どっちがいい?」
「舐めるなよ人外がっ!我らが依頼主を売るような真似はしない。やるならさっさと殺せ」
言いながらも暗殺者達の身体は、何度も不可解な痙攣を繰り返しながら、身体の自由を許さぬマトの呪術を突破しようと必死であったが、どう足掻いても痺れが抜けない。
裏の仕事人達は一様に焦っていた。
依頼人に仕事の経過を報告しなければ…、ぼろい仕事のはずだった、仲間達と儲けを山分けして高い酒を飲んで、朝まで遊び歩いて、また飲んで、それから…。
それから…。
「そう残念ね、じゃあ貴方達の魂を貰うわね闇の神様の供物に」
彼らの意識は唐突に途切れた。
残っていた暗殺者達は、マトに見据えられたその数秒後同時に息絶えた。
あまりに凄惨な現場に居合わせた使用人やラタニア達は絶句していた。
やがてリビングデット達やレジーナ達も戻り、ひとまずの決着はついた。
そして一人の暗殺者の意識の表層から、今回の仕掛け人の名前が判明し、マトは満面の笑みを浮かべ、意地の悪い声をだす。
「彼らは、仕事人だった。けど最後の最後に依頼人の事を考えた。疑わしきは罰せよ、死人に口なしとはよく言ったものね。リビングデッド達、急ぎの用事を引き受けてくれるかしら?夜明け前にはケリをつける」
「手間賃を頂きまス…」
「馬鹿言うなハッポウよ、何用ですカ?」
「我々は影です、なんなりト」
マトが妖しく嗤い、下手人の名前を告げ、館にある地図を引っ張りだし、住処への最短路を確認し、道筋を告げる。
確実に殺せと…
一夜明け、ジョン国王とマトや使節団の面々は、固い握手を交わし次の訪問を誓った。今度は王国側から使節団を出すとする旨を伝えながら。
「マト殿や使節団の方々道中お気をつけくだされ。昨日の晩のことはこちらでも調べよう。魔族に対する風当たりの強さもいまだ根強い、我々としては心苦しいばかりだが」
「陛下のせいではございません。此度の条約締結には、救われた気持ちで一杯でございます。我が主もさぞお喜びであると確信しております。いずれまた機会がある時にお邪魔いたします陛下。では我々はこれにて」
鼓笛隊の演奏を聴きながら、レジーナを先頭にグリフォンの隊列が順々に飛翔していく。
颯爽と去る姿に、国王は感慨深けにながめていた。これから何度も関わるであろう魔都の魔族達を想いながら。
時を同じくして、王都にあるヘンデル男爵邸にて男爵の惨殺体が発見され、王都は一時厳戒体制となる。
喉は真一文字に切り裂かれ、背中からは何度も刺突され、死に顔は悲惨なものだった。
怨恨か、通り魔か、或いは別の誰かか。
男爵とそれに近しい者しか殺害されておらず、強盗とも違うと判断された。
ただ惨殺された男爵の上着からは、犯人からの書き込みとみられる意味深な手紙がこれみよがしに添えられていた。
我々の邪魔をするな
流暢な筆記体でただ一文だけ。




