晩餐会にて
宮廷魔導士は警戒を強めていた。一瞬陛下の表情が歪み、苦悶されている表情が垣間見えたからだ。
相対するマトという魔族が、笑みをたたえたままなのがまた不気味だ…。
陛下が暗示や洗脳を受けた兆候はない。だが今は失われた言の葉に呪力を籠める、呪術という魔術とは別の術法の可能性は否定できない。
もし彼女がその呪術士なら、なにか仕掛けてくる可能性は充分にある。
私は一抹の不安を覚えながら、配下に目配せし備えることにした。
マトは先程から視線を感じていた。陛下に対し、一瞬だけ呪力を使ったのが感知されたんだと考えた。
場を移動している最中、自分を中心に囲まれている気配がしたからだ。
せっかくの会談で争えば、この話はお流れとなりエンリエッサ様のきついお叱りを受けてしまう。
それだけは避けなければならない。今まで積み上げた信頼が崩れてしまう。
さらに慎重にしなければと決意を新たにし、ラタニアと手を繋いでいた。
「諸君!北の地よりのお客様方を大いに労おうではないか。親睦を深め、さらなる高みへと共に邁進してまいろうぞ!では、乾杯っーー!」
場をホールに移し、国王の野太い声が響きわたり晩餐会の始まりを告げた。
しかし使節団の面々に、どのように声をかけるべきか王都に住まう貴族達や有力者達は尻込みしていて、なかなか声をかけれなかった。
三つ目の貴婦人に半人半竜の人外、青白い肌を持つ赤目の者達、興味よりも恐怖がまさっていたからだ。
そんな雰囲気を察して、マトはレジーナを伴い貴族達に歩み寄った。
「本日はお招きにあずかりありがとうございます。使節団の代表のマトと申します。このような場のマナーや作法には慣れておりませぬゆえ、色々と勉強したいと考えております」
レジーナは内心で一番マトが慣れてるだろとツッコミを入れつつ、昨晩マトの指導で仕込まれた作法を実践した。
「武官のレジーナと申します。以後お見知りおきを皆様」
服の裾をつまみながら、優雅に一礼してみせた。
あまりにも自然体であったので場にいた紳士達は息をのんだ。途端に堰を切るように会話の応酬が始まった。
「マト殿、交易の品は是非とも我が商会の商品を紹介させて下さいませ」
「人族と魔族が共存できる都市とは真に素晴らしい。我が国と通じるものがございますな」
「我が国の果実は、加工のしやすさも売りなのです。フラリスの実などは今が食べ頃にございます。オススメはやはり生で豪快にですね〜」
「マトさんすごい、場の雰囲気を和やかにしてしまった。私も頑張らないと」
「ラタニア、それぞれに役割というものがあるんだから貴方は貴方の役割を演じればいい。私がお手伝いするヨ」
「ハッポウビジンが良いこと言っタ」
「場が締まらないだろフトッチョ!」
「ネコゼ、うるさいヨ」
いつまでも名無しだと都合の悪いリビングデット達は、お互いの特徴で呼び合うことに決めたようだ。
一方のラタニアも、意外にも気さくなリビングデット達に後押しされ、貴族や有力者の輪に飛び込んでいく。
初々しい娘が、健気に頑張る姿が紳士達に人気を呼んでいた。
他の四人のオギル村長の親戚達は、豪勢な祝いの席の料理を前に本気食いをしていてそれどころではなかった。
度数の強い酒を飲み交わし、酔い潰れる寸前の有り様だった。
「えー諸君、使節団の方々は三日間ほど我が国に滞在されるご予定だ。今宵はここでお開きとし、旅の疲れを癒してもらおうと考えている。我が臣下達よ今宵はよくぞ集まってくれた礼を言う。使節団の方々もお疲れであろう?案内させるゆえどうかごゆるりと過ごしてほしい」
王の掛け声で場が閉会となり、臣下達は各々帰途についていった。
マト達一行も、案内の者に導かれ客室へと進んでいた。
フトッチョやネコゼが酔い潰れた男達四人を担ぎあげ、マトはラタニアにセクハラを敢行していた。
「ラタニア疲れたでしょ?私も疲れたのよ今夜は一緒に寝ましょう」
「マッ…マトさん近いです。客室はたくさんあるみたいだし大丈夫ですよ」
「うーんまるで別人ネ」
「二重人格とかカ?」
「いや、あれが本来の姿ダ!」
リビングデット達は、思い思いに意見を言い、レジーナは渋い顔をしていた。
「あれで第一軍団の中でも、エンリ姉様に次ぐ実力者っていうのがなぁ〜。私も負けてらんないな」




