北の大地にて
ヴァスティーユ大陸には大小様々な人族の国家群が乱立していた。
人々は平和な時代を謳歌していた。もちろん戦乱の時代などで世が荒れこともあった。しかし、天魔戦争のように大陸を二分するような争乱は久しく起きなかった。
人々は魔族達を大陸の端へ端へと追い詰め、遂には北の大地まで追いやった。しかしその北の大地は、今や不可侵の魔族の領域として独立をしていた。
その理由は大きく三つあり、まず一点目として大陸を大きく横断するように存在する雄大な自然が残るロート山脈の存在があった。
そして二点目は、そのロート山脈の頂付近にそびえる天魔戦争時代からあるとされるイリトバ城塞と呼ばれる魔族の一大軍事拠点。
大悪魔や悪魔が根城としていた悪名高き城であり、忌々しき城。
こちらを見下ろすようにそびえ立ち、山脈一帯に睨みをきかす存在。
そして最後の三点目は、天魔戦争時代からの生き残りの三悪魔達自らが業魔将を名乗り、その内の一悪魔による山脈全体にかかった霧のような迷いの結界が最大の要因であった。
方向感覚を失わせ疲労を強制し、神出鬼没に魔族や魔獣が現れ、侵入者に襲いかかる。
今まで幾度となく歴代勇者や各国連合の軍隊の攻撃を跳ね除け、頑強に抵抗を続けている。そして隙あらばたくみに攻勢に転じ、近隣諸国を脅かし前線が絶えず動きまわっていた。
そんな厄介な山脈のことを考えながら軍議に参加している将がいた。
彼の名はブルーノ・レスタといいレベルタ皇国からこの城塞都市の守護を任じられた初老の男性であった。
「今こそ人族の意地を魔族どもに見せるべきです!我らの底力を見せるべく攻撃にでるべきです!」
若い参謀が何回目になるかわからない積極案を提示すれば、対面からは反対案がすぐさま飛んできた。
「閣下ここは守備に重きを置き、首都や近隣からの援軍を待つべきです。我らだけで攻めれば敗北は必至。ここは耐える時だと具申いたします。」
と中年の生真面目な参謀から慎重案がすぐさま意見される。
「なにを馬鹿なっ!」
「貴様は現状を理解していない!」
などと罵詈雑言が飛び交う始末に初老の男性は頭を抱えていた。これでは軍議が進まないと咳払いをしつつ、
「皆の意見はわかった。かの山脈は魔族どもの要害の一つであり、この都市が落とされれば後方の都市や村々が戦場となってしまう。そのことを避けるためにも今は守備に重点を置き、城壁を各砦とつなげ魔族の目をこちらに釘づけにすることが急務である。防衛の面で皆の知恵を貸してくれ。」
その言葉にいがみ合いをやめ一種の連帯感が生まれ軍議は円滑に進んでいく。
そこには、ポリーウット城塞都市の会議室でよくみられる光景が広がっていた。
この城塞都市は山脈を挟んだ荒地の小高い丘に築かれた前線基地であり、微妙なパワーバランスに均衡の保たれた人族と魔族の最前線地域でもあった。
また、魔族狩りの急先鋒でもある皇国の一都市であり、まるで屋台で物を売るように魔族達が売られていた。
用途は購入者の自由な意思に委ねられており、様々な種族の魔族が店頭に並んでいた。
愛玩用や労働力、鑑賞用、側仕えなどどんな用途にもである。
首には数珠繋ぎで縄でつながれ。足には足枷がされ、逃走防止の処置が施されている。
そんなポリーウット城塞都市の後方の平原では、この世に顕現した化身のリーゼが、鼻歌まじりに散歩をしながら自身の能力を確かめつつ付近の村々を襲いながら城塞都市に徐々に近づいていった。




