下準備
ウェルドア王国のヘンデル男爵は、自身の邸宅の執務室を荒々しく叩いていた。
先日の離散した者達の追跡が失敗に終わったとの報告を受けたからだ。
また自身の支配する領土から、住民の離散や逃亡が止まらないからである。
どうやら北の地の魔族の新興都市が、逃げた住民を保護しているらしい。
このままでは管理能力の有無を国王より問われ、位を剥奪されるかもしれない。
攻めようにも先の皇国の軍や、追跡に向かわせた者達と同じ末路が待っているに違いない。
「魔族の者が、忌々しい真似をしおってからに、なにか良い方策を…」
どうするべきか考えがまとまらず、悶々とした時間を男爵は送っていた。
オギル村長の一件以来、リーゼガルドには徐々にだが人の人口が増えていた。
風の噂が付近に広がり、住民が保護を求めてやってきていたのだ。
避難してきた者達は、城門の上を座るレジーナや門を守護する骸骨兵に怯えながらも、門前の小屋の受付に人族がいることに驚きながらも安堵した。
「マスロ地方からきたピニャタという。ぜひこの地に移住したいのだが。」
「はい、ようこそリーゼガルドへ。この住民票に名前と、あとは家族構成、職業をお書き下さい。住居はただいま建築中ですので、あちらの共有の長屋をお使い下さい。」
「あっ…ああ。これでよいか?」
「結構でございます。一日に数時間労役の義務がございます。あとは風紀や治安を乱す者は、処罰の対象になります。なにかご質問はありますか?」
「いや、特にはない」
「わかりました。ではご不明な点がありましたら、街の中央にある役場にいらして下さい。次の方どうぞー」
門前の小屋の受付には列ができ、オギル村長の村出身の者がてきぱきと業務をこなしていた。
傍らでは、エンリエッサの弟子達も忙しく働いており業務を手伝っていた。
住民の登録作業は夕刻まで続き、閉門の鐘が鳴るのと同時に、その日の作業は終了となった。
「エンリエッサ様、こちらが本日の住民票の台帳にございます。これで街には千人弱程の住民が移住してまいりました」
「順調だね。あとは住居の建設を並行して進めないとね。それまでは、一部の住民には魔族の住民と住んでもらう必要があるな」
「その点に関しては問題ないかと、街の建設もようやく落ち着き、現在の作業スピードならすぐに解決いたします」
「そうね〜。後は人族の国か街との交易を持ちたいところだね!ウェルドア王国はたしか中立的な立場だし、こちらから外交特使を送りましょうか。オギル君手紙をしたためてくれる?」
「わかりました。ですが王国には亜人の方々は住んでいたりもしますが、そう上手くいきますかね?人選はどういたしましょうか?」
「王国が敵対ではなく、友好を選んでくれたらこちらとしても嬉しいしね。誠意をみせるためにも、私の副官を含めて魔族側から五人、オギル村長の信頼する者五人でどうだろう?あまり大人数でいくと、警戒心がでるしな」
「マト、頼めるかしら?」
「はい、エンリエッサ様!」
副官の一人マトが、エンリエッサに対し最敬礼で応じ、オギル村長は誰にするかで唸っていた。




