接触
エンリエッサは、オギル村長の胸に手をあてながら、村長の瞳を真っ直ぐに覗きこんでいた。
「さて村長、一度しか聞かないよ。貴方達はなんの目的があってここに来たの?もしも嘘偽りを言ったら…」
「分かるよね?」
周りを取り囲むアンデット達が一斉に武器を構え、騒いでいた魔獣達も舌舐めずりしながら村人達を観察している。
そんな光景に村長以外の村人は、身体を強張らせて身を震わせて祈りを捧げていた。まるで悪夢が過ぎ去るのを祈るかのように
「さぞ名のある悪魔様だと存じます。私はウェルドア王国の村より、貴方様に保護を求めてやって参りました。何卒我らの願いを聞き届けけて下さい。どんな事でも致します!どうかっ」
「村長、貴方の言い分は分かった。ただなぜこの都市なのだ?亡命先にしては不適当じゃないかな?」
「はい、あのままあの国に留まっていても、我らに未来がないと考えたからです。飼い殺しにされ、切り捨てられると思い悪魔様方の慈悲にすがりたく」
簡単に人族を裏切ると言い放った村長と思われる男性、なにか隠しているにしては演技という匂いは感じないな。
それに、その切迫した表情。
信用できるかどうか、一つ発破をかけてみようかと悪戯心に火がつく。
「もしも、私達がそんな願いは知らない。お前達もここにきたという事実をなかったことにするとしたらどうする?生贄でも数人さしだしたりするのかな?どーなの…」
「あはっ、エンリ姉様殺しますかこいつら?お前達、ご飯の時間になりそうだ」
場に満ちる嫌な程の沈黙、それはつまり受け入れられない要求だ。
村人は恐怖のあまり肩を寄せ合い、顔面蒼白な者まででている現在、試されていると村長は直感的に感じとる。
「我々が差し出せるものはこの身一つ、ましてや苦楽を共にした仲間を売るなど言語道断です。悪魔様が気にくわないというのなら、まずはこの私を八つ裂きに…」
無言の村長にエンリエッサ。
やはり面白い、この男は嘘を言わずに赤裸々に身の上を話した。
この男、我が陣営に加えるのも一興か…
考えを纏めたエンリエッサが口を開く。
「なるほどねー、うん分かった。貴方達の滞在を認めよう。しばらくは自立できるまでは税は免除、その代わりに日に二十人程労役を課すわ。あとは衣食住は保証しよう。ろくに食べてないでしょ?まずはご飯かしらね」
あっさりと滞在の許可がおり村長は面食らった、なにか裏があるのではと。
「悪魔様、よろしいのですか?たしかに我々は丸三日程飲まず食わずでしたが、簡単に許可をだされて?」
「ん?私がこの都市の裁量を、我らが主から仰せつかっているからね。それにな村長、君からは独特な気迫を感じた。もし君が保身に走り、村人達を売るようなことをしたら処断するつもりだったよ」
「これからよろしく頼むよオギル村長。私は業魔将が一人、エンリエッサという。けど君も変わってるね、信じるべき神に背信する行為をとるなんてさ」
オギル村長は、その名を聞き驚愕していた。伝説や童話にすら出てくる旧い悪魔との邂逅に、身が竦む思いであった。
この方の気紛れで、我々は救われたと強く確信したからだ。
「こちらこそよろしくお願いいたしますエンリエッサ様。貴方様に変わらぬ忠誠を誓います!」
「あれ?ご飯はお預けですかエンリ姉様?おかしいなー、なんで?」
エンリエッサが手を振り、辺りの囲いを解き、レジーナが困惑気味であるが辺りを包む殺気は緩和され、和やかな歓迎ムードになっていた。
そんな中、村人からは不思議な悲鳴があがった。
数人のハーピーが、村人の若い男達に群がり羽交い締めにし、服を脱がそうと違う意味で襲っていた。
「レジーナ、教育がなってない」
「しかしエンリ姉様、本能的なものはどうしようもないかと」
「エンリエッサ様、この雄いい匂いがするよ。きっといい子供ができるよ」
村長や村人は突然の奇行に目を白黒させ、エンリエッサとレジーナは不安を露わにした。
とりあえずハーピー達を引き離し、夕飯抜きの罰を告げたところ、ハーピー達は半泣き状態だった。




