羊の群れ
村長は内心で後悔していた。はたして自分の選択は正しかったのかどうか。
慣れ親しんだ村は、帝国の国境付近に隣接する小国の村であり、一帯を支配する領主が税率をさらに引き上げたのだ。
帝国の覚えを良くするために、上納金を余分に支払うだけでなく、自分の私服を肥やしているともっぱらの噂だった。
ヘンデル男爵は私達のことを使い捨てにする気に違いない。
だからといって私達が逃げる先として定めた、北の地にある魔族の都市が安全であるかもわからない。
完全な博打であった。
「なぁオギル村長、例え逃げのびたとしても、魔族に喰われるだけじゃないのか?追っ手にかかって死ぬのとあまり変わらないんじゃないか?」
「ええいなにを弱気な!新天地を目指すと村を出る前に話しあっただろう。あのまま村にいても搾り取られ尽くすだけだ。あとは天に身を任せるだけだ!」
逃げながら大声を出す村長、その間にも男爵の追っ手達にかかり村人達が落命していく。そこに男女の区別はなく、追っ手達も面白がっているようだった。
「まるで訓練用のカカシみたいだ」
「矢がもったいねー剣を使え!」
抵抗のない村人達に追っ手達は悦に浸り、下卑た笑い声をあげていた。
そうこうしているうちに、魔族達のいる都市の城壁が見え始め、城門の前の平野部には、骸骨兵達が槍衾を構築し方陣を敷く構えをとっていた。
そのさらに前面には、青白い肌を持つ者達がそれぞれが違う武器を携えながら、猛然と突撃をかけてきた。
上空には大きな翼竜の姿をした女性が、ハーピーやグリフォンを伴いながら急降下をかけてきた。
「あぁぁー!もう終わりだオギル!俺達はここでおしまいなんだよ」
「オギルの馬鹿野郎がっ!下手な博打なんかうちやがって」
「糞っ糞っ!神様ー!」
村人達が口々に断末魔の叫びや、恨みごとを叫ぶ中オギルは異変に気づいた。
「…⁉︎なんか変じゃないか?」
確かに襲われたが、相手方が襲っているのは追っ手達の方で、自分達は敵だと思っていた骸骨兵やグリフォン、ハーピー達により守らるように囲まれていた。
ハーピー達やグリフォンにより、追っ手達は体の一部をついばまれ、リビングデット達により散々に惨殺されていった。
またレジーナが仕上げとばかりに、辺り一帯を黒い焔で焼き払い、動く者が存在しなくなった。
やがて追っ手達が全滅すると、逃げてきた村人達を囲む魔族達は、興味ぶかそうにながめていた。
好奇心旺盛な、グリフォンやハーピーは村人を羽根や嘴で小突いていた。その反応にケラケラと笑い声をあげながら。
アンデット達は、ただ一点を凝視するかの如く村人を見つめていた。
「こらこら、あまりはしゃぐなよ客人達が困っているじゃないか、さて客人よこの地に来た訳を教えてくれないか?」
上空よりゆっくりと飛来した、紫髪の小柄な悪魔が村人達を見て回り、真意を問うてきている。抵抗は無意味だろう。
村長のオギルは覚悟を決めた。




