帝国の裏に潜む者達
ネルト帝国、大陸の三割を占める巨大な君主制国家であり、帝王を中心とした厳格な階級社会が確立している国である。帝都には、天使と光の神を信奉する聖光教会の本部が存在する。
また地方を治める各県令達は、帝王から様々な権利を譲渡されていた。その発言力は、他国の王族を凌ぐともいわれている帝王の側近達であった。
特権階級には王族、支配者階級に貴族達や県令達がおり、騎士階級や商人階級、平民階級が続き、最後に奴隷階級が存在する。
いうまでもなく奴隷階級には、帝国に負けた人族の戦争捕虜達や、魔族狩りで囚われた魔族達が含まれている。
そんな厳格な階級社会の裏に、特権階級であるはずの王族を操る者が存在する。
その存在とは、天魔戦争を生き延びた天使達であり、人の世をより良くするという大義名分のもと、王族や帝王を創造し上層部を傀儡としていた。
心と意思を捻じ曲げ、精神操作を行い、全ては国と光の神のためという暗示を植え付ける徹底ぶりであった。
神の使徒の一人、天使ナナイは現状を分析する。
「今代の御使いはなかなかに苛烈じゃないかしら?帝国の前衛であった皇国がいまや見る影もないじゃない。我らの大事な手駒である聖人も討たれてしまった。これ以上は見過ごせないわね」
「なぁに討たれてしまったらまた造ればいいのさ、なんなら人の殻を脱ぎ捨てればより強大な聖人になれるさ。もっとも人ではなく別のなにかだけどね」
「クロスフィア、それはあまりにも不敬な発言だ。光の神が創造された人族をそのように扱うならば、私が悪魔共より先に貴殿を裁くぞ!」
「可能性の話をしたまでさナナイ。まだ聖人達も勇者も健在だ。今はまだ悪魔共に主導権があるだけで、逆転の時は必ず訪れる」
「彼らの強さは結束力にある。中心である御使いが倒れれば、途端に崩れるものだ。焦らず機を見ればいい。この国には今何人程聖人がいるかな?」
「聖槍に聖盾、聖槌に聖鎧の四人かしらねシルベスタ。勇者は、東部のはぐれ悪魔の群れを討伐している最中よ。あとは勇者の側に聖拳と聖灯を確認したわ。その他は大陸各地に散っているわね」
「勇者に啓示をだし、帝都に参集させてはどうかな?」
「魔族達もあれ以来戦力を集めている。勇者には各地の芽を摘んでもらう、刈り取った後で啓示をだせばよい」
目を閉じたまま話す清らかな乙女の姿をした天使ナナイ、武人のように体格のよい壮年の男性のシルベスタ、青年のような顔をした幼さの残るクロスフィア、帝国を実質支配する熾天使達であった。
「あちらに動きがない以上、こちらも戦力を集めたほうがよさそうね。この地を陥される事は避けねばならないわ」
「そうだね、まぁ我々が出張ればそれで済む話じゃないかい?」
「旧い悪魔達を侮るなよ。彼らの実力は我々と拮抗している。他の天使達と協力するのが吉であろうな」
帝都の王宮のさらに奥、球体状の聖なる結界の中、熾天使達の密談はどこまでも続いていく。
天魔戦争のさいにとどめをさせなかった宿敵達に、どう裁きを与えるか。
天使達は、帝国の特権階級達の意識と同調させ、次なる一手をうつべく指示を与える。全ては光ある世界のために。




