閑話 バンネッタの渇望
まだ業魔将が三人組ではない時代、エンリエッサのみが業魔将を名乗っていた頃に彼はきた。
彼は、天使や人族、悪魔の区別なく挑みかかり、力比べをするという特殊な個体であった。無論相手の生死は問わないという理不尽さであった。
そんな彼には、ロート山脈に住まう紫髪の小柄な悪魔の存在は、不思議な個体のように感じられた。
悪魔とは本来、自身のみこそが全てという存在であり、同族同士で群れることはあっても、眷属である魔族を庇護するなど聞いたことがなかった。
彼女の亡き主である大悪魔の意思を継いだとも風の噂で聞いたが、彼の意識は、戦ってみたいという思いで膨れあがっていた。
考えるより行動のバンネッタは、すぐさまロート山脈に足を向けた。
「酔狂な悪魔がここにいると聞いてきたバンネッタという者だ。その力是非とも俺に見せてくれ、無論お互いの存在をかけて盛大に」
「私も敵と味方の区別もできない馬鹿な悪魔がいると聞いたけど、まさかあなたがとはね。ただ同族同士で争う気はないの、他をあたってくれるかしら?私は忙しいから」
「俺の誘いを袖にするとは、ならばお前が庇護する矮小な存在の首を並べれば受けてくれるかな?俺はどうしても戦いたいんだよ」
「馬鹿につける薬はないものかしらね?おいお前、これ以上愚かなことをぬかすと、存在を魂ごと消滅させるよ…」
「いいね、研ぎ澄ました刃のような瞳だ。そんな表情もできるんだなエンリエッサ。ますます興味深いよ」
濃密な魔力の波動が辺りに広がり、辺りからは動物達の逃げ出す音が響いた。
バンネッタは無銘の長剣を構えた。長剣には、鎖が巻きついておりどす黒いオーラを放っていた。まるで長剣に業を巻きつけているようにも見えた。
対するエンリエッサは、左右に巨大な白骨の腕を召喚し、自身の体を巨大な肋骨で保護していた。近接戦闘に応じているかのように。
そして戦いは三日三晩に及び、実力は拮抗していた。故にお互いに攻めあぐね、勝敗の行方は定まらなかった。
小柄な悪魔は、肉弾戦を仕掛けながら多種多様な魔法を撃ち込み、無骨な黒鎧の悪魔は、魔法の直撃を長剣で打ち払いながら斬撃を繰り出していた。
そしてとうとうエンリエッサからある一つの提案がなされた。
「バンネッタ、力を渇望するなら私達の仲間にならない?ここならまず間違いなく、強者達が集まるよ。それにもし現れなかったら、私がまた再戦を受けようじゃないか」
「ぬっ…わかった。今の言葉忘れるなよ!その申し出丁重に受けよう」
「バンネッタ様、よろしくお願いします」
「うむ、かかってこい!」
自分の部下達と練兵場で訓練していると昔のことを思い出し、つい夢心地となっていた。
あれから何度も戦いを行うもののいつも引き分けになっている。間違いなく強者の一人と認めていた。
しかし、次こそはと胸に秘め、訓練に明け暮れる。模擬戦で打ち倒された部下達を見ながら、訓練で汗をかいていた。
当時と変わらない、力を渇望するバンネッタの姿がそこにはあった。




