化身の登場
天魔戦争が起こる以前より前から、光と闇の神は異なる次元や異なる世界で、代理戦争を繰り返し行っていた。
その結果堕落した世界もあれば、完全に統制された世界、清濁合わさった混沌とした世界など様々な世界が誕生していた。
そこには比類なき暴君もいれば、善政を敷く賢王、合議により全ての事象を決める機関など実に様々なシステムが構築された。
あの世とこの世の狭間にある隔絶された世界。一面に何もない広々とした空間の下には白黒のタイルが広がり、上には真っ赤な半月の月が浮かんだ不可思議な場所で身支度を整える1人の悪魔がいた。
「もう一度確認するぞ我が父よ。どんな手段を用いても我らの理想郷をこの大陸に建設せよとのことだが安住の地がない以上戦乱を起こすのと同義ではないのか?」
不機嫌そうに愚痴る女悪魔の髪色は燃えるような緋色をしており、頭からは大きくねじれた角が二本はえていた。
また、背中からは悪魔の象徴たる羽四枚を器用に動かしていた。
「いかにも我が娘よ。我らの版図を広げ、憎き怨敵である光の神の子らである人族を駆逐し再び我らの時代をよびもどすのだ!そのためにもまずかの大陸へと赴き、我らの同胞である魔族達と合流し力を貸してやってほしい。そのために我が力の一部をおまえに分け与えたのだ。」
天上より良く通る渋めの声の持ち主は、全ての魔族と悪魔の産みの親であり頂点である闇の神であった。
姿形こそ見えないが、その存在感は禍々しいものであった。そんな神に物怖じしない態度の女悪魔もまた神の化身の一柱であった。
「しかし私に使いこなせるでしょうか?我が父より授かったこの原初の力、火は身を焦がす諸刃の剣のように考えます。扱いに関しても、この身体が覚えているとはどういうことでしょう?」
「なんだ怖くなったのか?お前なら有効に使えよう、その能力を活かすも殺すも全てはお前次第だ我が娘よ。その能力でわしに阿鼻叫喚の地獄を見せておくれ」
「御命令とあればやり遂げてまいりますよ。我が父の手となり足となりまずは現世の我らの領域近くのこの地に、巨大な篝火を灯してご覧にいれましょう。我が父邪神様と私の生誕祭の意味を込めて」
そう微笑むと恭しく赤い半月に一礼すると、まるで床に沈みこむように悪魔の身体は溶けていき、やがて全身が見えなくなると辺りは静寂に包まれた。
「頼んだぞ我が娘リーゼよ。おまえの行く末に導きがあらんことを…」
そうつぶやくと闇の神は現世の様子を注意深く観察し、思案にふけていった。
数百年に一度の周期で闇の神の化身は度々現世に顕現する。
光と闇の神がお互いがお互いを封印した隔絶領域において、一時だけだが綻びが生じる。その時に己の化身であったり、大天使や大悪魔、時には勇者、時には人外など多種多様な存在を下界に顕現させる時がある。
中でも闇の神の化身は、容姿や形も時代毎に異なるが、どの歴史書や伝承においても共通点としてあげられるのは、災厄の権化であるということであった。
人族からは自然災害のように恐れられ、魔族からは神の代弁者である御使い様として崇められる存在であった。
リーゼの名が記されたのはこの少し後からであった…




