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化物達の理想郷  作者: 同田貫
災いを呼びし者
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閑話 エンリエッサの散歩

リーゼが顕現する百年程前、前任の御使いであるエルトダインが討たれてからしばらく経っているにも関わらず、業魔将達を中心とした魔族の動きは極端に鈍かった。


独断先行でエルトダインが単身暴れ回っている間に、本拠地であるイールガルを陥落させるべく大挙して人族と天使が攻め寄せたためでもある。

虎の子の霧の結束が破られ、イリトバ城塞を破り戦場が魔都にまで及んでしまい、魔都に住まう民や兵士達に甚大な被害を受け、魔都の都市機能が麻痺し、戦いからの傷跡が癒えていなかったためである。


民達は戦いに疲れ、兵士達も御使い不在の心細さから、指示待ちの状況に陥る。


そんな時業魔将の一人であるエンリエッサは、動けぬ魔族に代わり、異界より魔獣の群れを呼び寄せた。


「キュルキュル!」

「ギャッギャッ、ギャー!」

「フゥフゥ、フゥー」


「はいはい静かに!この子をこの群れのリーダーに任命するから、以降はこの子の指示に従うように!今からこの山は、君達の縄張りであり、家となる。迫り来る外敵は残らず排除しなさい!」


「できるわね、レジーナ?」


コクリと頷く一体の異形。

上半身は可憐な女性だが、下半身は龍の形をした特異な魔獣を指名する。


群れの統率者として、より高位の魔獣を召喚し、その内の一体に言葉と知恵を授けた。

そしてその者達に山脈の守護を命じ、現在のロート山脈における、治安維持部隊の基礎を作ったとされている。


魔族達側の文献には、救国の英雄であり尊ぶべきお方、始まりの悪魔、悪魔公など様々な美辞麗句の言葉が並ぶ。


一方で人族側の文献によると、エンリエッサは悪役として名高い存在だ。


(魔獣を解き放ちし者)

(神出鬼没の旧い悪魔)

(魔族の庇護者)

(黄泉より出でし人外)


敵役として散々の言われようであった。

ローブの少女を見たら魂が抜かれる。

身内に不幸が訪れるなど、人族側の話が大きくなる始末だった。


歴代の勇者が討ち漏らしたた人外は、独自の考えで魔都を整備し、軍を整理し、結界を再度構築し、防備を徹底的に固めた。

イールガルを中軸に、イリトバ城塞、ロート山脈、そして霧の結界。


来るべき御使いの再臨に備えて…。



そんなエンリエッサが時折弟子達や、配下の魔獣レジーナとともに度々山脈を抜けて、出掛けることがしばしばある。

魔術の研究なのか、新たな魔獣を呼び出す下準備なのか、誰にもわからない。


その目的は…


「よし、レジーナ次は西の甘味を探しに行くよ!まだ見ぬ味覚が私達を待っているの。甘い物というのは、悪魔を堕落させるまさに禁忌の食べ物ね、貴方も好きでしょ?」


「はい、エンリ姉様。この間のロシュウの実は大変に美味でした。渇きを癒すだけでなく、焼くとさらに甘みが増す点など驚嘆すべきことです!聞くところによると、ここより西の都市ではロシュウの実のパイ包みなる物があるそうですが、本日のおやつはいかがいたしましょうか?」


レジーナの背に跨る紫髪の小柄な悪魔は、どこまでも上機嫌な様子だ。

レジーナも、自分が頼られるのが嬉しいのか、いつも以上に速度をだしている。


「本当なのレジーナ?いやしかし今日は、リコッタの果実酒なる物を探している途中なのよ!パイ包みは次の機会にしましょうか、楽しみはとっときましょう」


「エンリエッサ様、レジーナ様もうすぐ果実酒の売られている市に到着します。いくつ買ってきましょうか?」


高速で飛翔する翼竜の背中では、趣味の話全開の二人と、今回の旅に選出された弟子の一人との会話が楽しげに聞こえていた。


そんな弟子の質問に二人は迷いなく、


「もちろん買えるだけ全部よ!」

「樽ごと全滅させるわよ!」


息のあった返しをしていた。


「わかりました…、対応します」


持ってきた財布で足りるかどうか、計画性がまるでない二人組をよそに、溜息をつく。

しかし、自分も楽しんでいるのは確かだ。

山脈に戻った後は、いつもの副官が顔を歪ませ、不機嫌そうにエンリエッサ達を、説教をするのがお決まりの通過儀礼だった。


しかし、この散歩はエンリエッサ様達の息抜きの一つなのだと考え、怒りの副官を宥めるのも弟子の仕事であった。


大量に買い込んだリコッタの果実酒を、魔都の者達に振る舞うエンリエッサの表情は、どこまでも晴れやかだった。

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