そして時は移りゆき
サマエルとリーゼの消失。
それは単純に二人の気配がなくなるのではなく、文字通りの意味での完全な消失を意味していた。
人魔の連合軍も、サマエルの軍勢も、主人達の最期の生命の煌めきを目撃し、それが変えようもない事実なのに気づくのに、そう時間はかからなかった。
一人、また一人、武器を地に捨てて空を見上げ、自分達の主人の冥福を祈るかのように黙祷を捧げる。
だが、その事実を受け入れられないサソリや、ヒュプノスとデレルネスなどは、サマエルのいなくなった世を儚み、自ら殉死の道を選んでしまう。
「…主人のいないこの世になんの未練もない、造られた我々は、創造主のもとへと還るとする。いざ、さらば!」
「待て!拾った命を無為に散らすな、明日へと繋げる努力をしろ!」
マトの制止も空しく、サソリは自らの首を刎ねて自刃し、ヒュプノスとデレルネスも自らの核を握り潰し、砂のようにその身を崩してゆく。
さらに周辺にいる天秤部隊や星屑部隊達にも、殉死の波が広がりをみせてゆく中、バンネッタと対峙していたシルベスタの声高な大音量が響きわたる。
「もう止めよ!もう充分だ、全軍戦闘行為も、自刃する事も禁ずる。速やかに武器を捨て、隊列を整えて待機せよ!待機だ、待機!戦乙女達は、付近の部隊を統合し、監督せよ!」
そんなシルベスタに、副官として任ぜられた銀髪の戦乙女がすぐさま反論するも、真剣な表情のシルベスタの一喝により、強引に黙らせる。
シルベスタはナナイと合流し、戦乙女に守護されていたサマエルの宿主、イズマイル聖女のもとへと一緒に歩み寄る。
「聖女イズマイル、貴方は人々の希望となるべく、本物の聖女になる時がきたと私は考えているわ。無論、人々の記憶からは貴方は悪印象であり、増悪の対象になる。ほとぼりが冷めるまでは、どこかに身を寄せねばならないが…」
「…ナナイ様、私にそんな大役できません。それに私はただの操り人形でしたし、操られていたとしても、私は、私がしたことを許すことができません!」
「私は罪深いんです…」
「なら聖女のその穢れが抜け落ちるその時まで、魔都イールガルで暮らしてみない?あそこなら、余計なしがらみもなく、罪の意識が薄れるまで面倒みてあげると約束するよ」
「妙案ねエンリエッサ、その話信用してもよいのかしらね?」
「ええ、任せてほしいわね」
「安請負などしおってからに、この先どうなるかがちと不安だな」
「…私にできるでしょうか?」
ナナイとシルベスタが、聖女と話し込む中、業魔将達が合流する。
聖女のこれからと、大陸の復興、大陸統一国家の設立、さらにはサマエルの敗残兵の処遇、新憲法の草案など、話すべき事柄は尽きることがない。
そして数週間後、ジョン国王やルバルフ帝、さらには各国の指導者達を巻き込みながらに、オスロの地にて、魔族と人族の平和条約が締結され、さらにその翌日には統一国家の設立を宣言。
各国が代表が署名してゆくこととなる。
その名をヴァスティーユ共和国と呼称し、大陸の全ての国々が加盟し、共和国の名のもとに全ての国民は人権を保障され、階級制度を廃止し、各国の軍隊も統廃合がなされ、一元化されてゆく。
こうしてこの大陸唯一にして、無二の巨大国家群が誕生することとなる。
人族と魔族は、新たな門出を祝うかのように、新国家誕生を祝福し、明日への希望に満ち満ちている。
やるべきことは山積みである。
光の神と闇の神。
二人の神々はヴァスティーユ大陸での一連の出来事を観察し、状況を精査しながらに、同じ結論をだしてゆく。
すなわち、もうヴァスティーユ大陸へは、大天使も御使いも顕現させず、自分達自身で舵取りを委ねることとした。
「我が娘リーゼよ、おぬしの活躍、しかと見届けた。結果として、魔族達の理想郷建設は完成をみた。この先我らの僕をこの大陸へ送るのを禁止したいが、返答は如何に光の神よ?」
「なるほど貴君の願い、概ね了解したわ。そちらが約束を反故にせぬかぎり、こちらも約束を違えぬと誓おう。私の僕の暴走が原因とも言えるわけだ、この大陸は今より触れざる大陸とする」
決まり事のように取り決めを交わす両者、それはもはや決定事項であり、覆りようがなかった。
しかし、二人とも仄暗い野心を隠そうともせず、お互いの意見を述べる。
「ヴァスティーユ大陸を諦めたのなら、他の大陸から手を引いてはくれないのかしら闇の神?貴君の勢力、私には鬱陶しくて仕方ないのよ…」
「光の神よ、寝言は他所でやれ。光と闇、闘いを宿命づけられた我々は、闘いでしか己を主張できない」
「闘いは終わらないのだ…」
「そうか、そうよね闇の神。まぁ提案しただけよ。他に他意はないわ、愉しみましょう。未来永劫の時の果てまで、私と貴君の闘いはおわらないの…」
ヴァスティーユ大陸
その大陸は新たな出発にむけ、破壊の傷からの復興をとげてゆく。
そして季節は過ぎ去り、時間の流れは誰しも平等に流れゆく。
明日に向けて…




