剣折れし者と躍動せし者
ナナイとクロスフィアの戦闘が続く。
その影響は周辺地域一帯にも及び、大地は陥没し、草木は薙ぎ倒され、河の水源までもが跡形もなく消し飛んだ。
それでもまだ、いまだに決着がつかない訳は、両者共に実力伯仲であり、永年同じ陣営にいたために、互いの手の内が手に取るようにわかるのが原因であった。
ナナイは真っ直ぐ過ぎる太刀筋から、幾度のフェイントを織り交ぜながらに、本命の剣筋を忍ばせる、意外にも技巧派な攻め方であったり。
右肩に力を入れる際は、渾身の突きを放つ予備動作なのは、クロスフィアが把握している彼女の癖であった。
それは逆に、ナナイもクロスフィアの癖を知っているということだった。
大鎌からの攻撃の起点は、常に横薙ぎからの派生であり、僅かな手首の返しで、次の一手が読み取れる事や。
一見我武者羅にみえる攻撃も、クロスフィアが、永年の研鑽によって編み出した必勝の型であるという事も。
互いの手の内が分かりすぎるというのも、考えものなのかも知れない。
相手の裏を読もうにも、こちらの動きや予備動作で、簡単に防がれてしまう。
これでは埒があかない、ジレンマを感じるナナイに対し、それは同様にクロスフィアも感じていることであった。
「堅物ナナイめ、いい加減にしてくれないかな?私はサマエル様のお側に戻りたいのに、君はどこまで粘るんだい?無駄な抵抗を止めて、さっさと僕に斬られて欲しいんだけどさ!」
「へークロスフィア、意見があうじゃないか!君のそのにやけ面には見飽きたところさ、私も貴方を細切れにしてやろうと思っていたの!」
「そうかい、そうかい!それは面白い、愉快な事だよ!本当にな…ナナイ」
「おどけてみたり、真剣になったりと貴方も忙しい人ね!どれが本当の貴方の一面なのか、見当もつかないわ」
いままでのおどけていた態度から一転、真剣な眼差しのクロスフィア。
それに剣を向けて応えるナナイ。
その瞳には、この大陸に天使として顕現した当時の面影がたしかにあり、クロスフィアが道を誤る以前の熾天使としての姿がそこにはあった。
無言の間にも、剣戟を交え、剣と大鎌にて言葉を交わす両者。
身体からは血が滴り落ち、服は裂け、次第に腕にも力が入らなくなっていた。
それでもと、膝を屈する訳にはいかないと感じるナナイ。
かつての友は、昔の姿に立ち返ったかのように振舞っているように見える。
私は、負けない…
あいつに、敗北したくない!
羽根をはためかせながらに、遙か上空よりその身を落下させるように仕掛けるナナイと、それを受けるクロスフィア。
勝負は一瞬であった。
それは瞬きする瞬間のような…
ナナイの太刀筋がクロスフィアの首を確かに捉え、胴体からは血が噴水のように噴き出ていた。
「…互いに全力、悔いは無い。手の掛かる妹弟子に、最後は軍配があがるか…。ナナイ、サマエル様を止めて差し上げろ。これは、きっと天命だ。いいか、必ず、やり遂げてみせろよ…」
「兄弟子として指導してもらった貴方に、ようやく白星を上げることが出来ました!私は貴方の想いを胸に、必ず成し遂げると誓いましょう!」
「変な奴だなナナイは、昔から…」
「えぇ、筋金入りの頑固者ですから!」
目にうっすらと涙を浮かべながらに、クロスフィアの最期を看取るナナイ。
変貌してしまったクロスフィアではなく、稽古をいつも熱心に、自分へ指導してくれた懐かしい兄弟子へと戻ってくれた事に感謝しながらに、その場を立ち去ろうとするナナイ。
だが、脚がもつれ、上手く歩くことが出来ずに、地面に倒れ込む。
その瞬間、小柄ながらも確かな存在感のある者に抱き抱えられ、安堵すると共にナナイは苦笑する。
「まさか、君とはね…」
「ご挨拶ね満身創痍の天使さん、まずはお務めご苦労様とだけ言っておくわ。安心しなさいな、寝首をかくような愚かな事はしない。私としては、そんな事をして、貴方との闘いの軌跡を終わらせたくはないからね…」
「そうか、君も変わったなエンリエッサ?御使いの影響かしら?」
「さぁ?どうだろうね」
サマエルを守護する超越者達は軒並み倒れ伏し、残り僅かとなる。
それでも彼の歩みは止まらない。
新世界創造
その言葉に取り憑かれた稀代の化物と、闇の神より産まれし化物、両雄が見えて激突したのは、すぐ後であった。




