放たれし者達
オスロ要塞線より退避する負傷者の群れ、そこには各国の首脳陣達も混じり、避難というよりかは、夜逃げのそれと似ているなと、ルバルフは他人事のように一人考えていた。
いまだに星詠みの巫女様が行方知れずの中、自分になにができるのかと、自問自答の毎日であったが、自分の役目はここに集いし民草達を安心させる事にある。
人心が離れた時、帝族の未来は潰えると、亡き兄もいつも口癖のように言っていた事を突然に思い出し、自嘲的に笑うルバルフ。
「はやくここから逃げないと!」
「もうおしまいだぁ…」
「こんな列をつくってたらダメよ!脇から抜けてバラバに逃げましょ!」
「かあちゃーん、かあちゃーんどこ?」
「わーん、わーん」
「こら押すでない!時間はあるのだ、落ち着いて避難せよ!」
「そんな猶予どこにある?あんた敵を知らないのか?もうすぐそこまできてるじゃないか!」
「だいたいあんたらが負けるから…」
バラバラになりかけた人々に、オフィーリアも不安気であった。
「叔父様、どうすれば…」
「なに案ずるな、オフィーリア」
民草を見回し、一つ大きな深呼吸をすると、ゆっくりと語りだすルバルフ。
オフィーリアも初めてみる叔父の顔つきが、そこにはあった。
「鎮まれ!鎮まるのだ、我が愛する民草達よ。いまやこの大陸は未曾有の危機に瀕している。人魔が初めて結託し、事にあたっても、敵はなお強大であり巨大だ。だがいまや私の、我々の隣人となってくれたリーゼ殿がおっしゃられたのだ!まだ我々は負けてはいないと、彼女達闇の神の信徒達が諦めていない中、何故我々が早々に諦める?我々も光の神の信徒なのだ、これは神が与えた試練に違いない。皆苦労をかけるが、共に苦難に立ち向かい一丸となる時は今ぞ!」
その言葉に、諦めかけていた人々に活力が戻り、騒ぎはさざ波が広がるように鎮静化してゆくこととなる。
人々の瞳には、生きようという確かな力強い灯火がやどっていた。
一方の第4城壁の周辺では、所々に穴が開き、最早城壁の意味を成していない場所が目立つ中、戦意旺盛な一団が隊列を組み、開門した城門から出撃した。
目指すはサマエル只一人。
他に用はなく、通過点と認識し、事に当たる人魔の殴り込み部隊。
先頭には御使いリーゼを中心とした魔族の部隊がおり、中衛と後衛にはそれぞれレイノルズ卿とジョン国王がいた。
「イシュガルそちらはどうか?敵はまだそちらに相当数いるのか?」
「リーゼ様⁉︎こちらには熾天使クロスフィアを中心とした部隊がいるのみです。なんとか粘っている次第ではあります。サマエルは別方向から迂回して第4城壁に向かいました!リーゼ様方がこちらに突出なさっているのなら、間も無く会敵するはずでしょう!まったくリーゼ様にも困ります、堪え性がないのですから…」
「わかった!その割には嬉しそうねイシュガル、堪え性がないのは認めるけどね!とにかく無事でなにより、敵の足止め役頼んだわよイシュガル!」
「御意に、リーゼ様」
小型の水晶球でのやりとりを終え、リーゼは原初の力を解放してゆく。
「いい加減、あんたらのお遊戯に付き合うのも飽き飽きしてきてるのよ!」
「消し飛べっ!」
側面攻撃をかけようとしていた天秤部隊の一隊に向け力を解放し、焔の濁流の中へと消え去り、後には消炭だけが辺りに燻るのみであった。
様々な戦闘経験で、リーゼ自身の原初の力は洗練され、大規模な能力発現を容易に可能にしていた。
焔の槍を手に、暴れ狂うリーゼ。
それに応えんとするリーゼの周囲にいる部隊もまた、気勢を上げる。
「リーゼ様をお護りせよ!道半ばで倒れても、最後の一人になるまで死守せよ!」
「「「応っ!」」」
そんな魔族の部隊に触発されて、人族側の部隊もまた気勢を上げてゆく。
レイノルズ卿とジョン国王の檄が飛ぶ。
「まったく、御使い殿が気張っているのに我らが遅れてなんとする!前衛部隊をさらに厚くせよ、儂の周囲は最小人数でかまわん!ほれかからんか、今世の最後の大戦ぞ!我が王国の武勇を示さん!」
「「軍旗掲げっー!」」
「ご老体である国王もやる気だぞ!我々の宿敵達の前だ、奮起せよ!装甲騎兵前へ、大陸の覇者たる武人の覚悟を見せよ!全軍早駆けを心がけよ、進め!」
「「突撃だ、突撃せよっー!!」」
王国の白地に双頭の鷲の軍旗
帝国の黒地に獅子をかたどった軍旗
魔族達の半月を逆さにした軍旗
それぞれの軍旗が整然と並び、勢いそのままに怨敵へとひた走る。
その動きは、サマエルからも捕捉され、じりじりと両者の距離は近付く。




