三本の矢
オスロ要塞線第4城壁、そこは人魔の集いし最後の拠点となりつつあるが、こちらの旗色が随分と悪い。
リーゼは魔族達の指導者として、自分の生命の最期の時まで責任を果たすつもりでいるが、人族達の代表達を自分のわがままに巻き込む訳にはいかない。
進退をどうするかの会議において、ルバルフとオフィーリア、さらにレイノルズやジョン国王、北部連盟の首脳陣にも撤退を進言し、負傷者達と共に、後方の勢力圏に属する都市まで落ち延びてほしいとの旨を伝えた。
「話は簡単さ、私は自分の臣下であり、仲間でもある者達を見捨てることができない。だから私はここに残りサマエルを消滅させる、貴方達は即刻オスロ要塞線から離脱して、このままでは共倒れだ…。生存者達を纏め上げ、再起を図る準備をしてほしいの」
「あいつは私が殺る…」
「馬鹿を申せ、サマエルと相討ちになるつもりか?貴方は魔族達の指導者であると同時に、彼らの求心的な存在のはずだ。共に生き延びて策を講じてからでも遅くはないはずだ!」
「オフィーリアの言もあるように、貴君には多大な恩がある。北部連盟の派兵に、人魔の融和、これだけでも感謝しきれるものではない。儂等と一緒に、この場から…なっ?」
悲壮な決意の御使いリーゼを、なんとか説得しようとするが、彼女の決意は揺らぐことはなかった。
そんな彼女と決意を同じくする者が、首脳陣の中からも出てきた。
レイノルズ卿とジョン国王だ
「御使いリーゼ、私もその旅の道先案内人ぐらいはできよう。どのみち何処へ逃れようと、彼らを打倒せぬ限り安住の地はこの大陸に存在せぬ。やるか、やられるかのどちらかだ。まったく、建国以来の窮地を迎えようとは、人生の曲がり角にして思わぬ収穫だ」
「私も同意見ですな、この地に残り指揮をとる者が必要でしょう?ならばその任は、このレイノルズが引き受けた。ルバルフ、オフィーリア、暫しの別れだ。ネルトの血を絶やすな、諸君らと共に戦えた事は、我が生涯一の宝だ。ルバルフ、民達の事くれぐれも頼む!」
「なら私も…、一緒に戦う!」
「ダメだ!許可できん!本家の帝族の方々が行方不明の今、ネルトの血が断絶する事は、最早国が死んだとも同義だ!よいな?ルバルフもだ!」
オフィーリアの問い掛けに、凄まじい怒号を上げるレイノルズ。
彼もまた帝国を愛するが故に、帝国の再興の種を残す事に必死だった。
先帝ルクセニアとの約束、臣下であり友人でもあったレイノルズの意地が確かな形で伝わってゆく。
「決意は変わらぬようだな?」
「当たり前だ、このお調子者の、優し過ぎる先帝の弟君よ!頼むぞ…」
「わかった、頼まれた!」
それ以上の言葉はいらなかった、ルバルフとレイノルズは無言で頷き合い、一瞬だが、オフィーリアにも優しく微笑みかけた後、彼はすぐさま軍人の顔つきへ雰囲気を変えた。
建国者たる、ネルトの血を継ぎし者を見つめながらに、各国の重鎮もその後に続いていく。
この場に残った者は、全体の三割にも満たないが、誰もが満ち足りた気分に浸り、やる気に溢れていた。
「御使いリーゼ殿のつゆ払いをする!サマエルまでの血路を開く、途中いかなる犠牲をだそうとも、進撃をゆるめるな!戦友がたおれようと、部下がたおれようと、もちろん私が倒れてもだ!必ず彼女をサマエルに送り届ける!」
「選抜隊を組織せよ!動ける者は根こそぎ組み込め、行くぞ諸君!」
「「おぉっーー!!」」
「あら?レイノルズ卿、貴方とても熱い御仁だったのね、我が軍団にスカウトしておくべきだったかしら?」
「これが私の本来の顔です!」
「ふっふ、ぬかしおる帝国め!」
第四城壁に籠る守備隊から選抜隊が組織され、殴り込み部隊と、撤退する部隊の二つに組織された。
殴り込み部隊
その任務は、可能な限りリーゼを援護し、サマエル本隊に打撃をあたえる部隊というそのままの意味であり、生還は望みえない、まさに特攻であった。
陣頭指揮を執るリーゼにレイノルズ、それにジョン国王。
明日を勝ち取る
それが三人の共通認識であった。




