発露
勇者マークは疲弊していた。
自身の利き腕である右腕を喪失し、臓器にも損傷をきたしていた。
利き腕はどうにか治癒術にて血止めしたが、全身を這うような痛みが続く。
瞼も重く、意識も朦朧としている。
クモと勝負を急ぎ過ぎた結果だ。
長期戦は不利と判断したマークの無理が、ここにきて皺寄せがきていた。
「…クモ、君はたしかに強敵だったよ。いままで戦った誰よりも難敵だった、僕も無理をし過ぎたかな?片腕だけじゃ、もう戦えないかもな…」
意識が閉じる瞬間、マークは暖かな光に抱かれるような感覚を覚えた。
それは穏やかで、どこか懐かしくもあり、忘れがたい存在。
「…ナナイ様?なのですか…?」
そこでマークの意識は途切れた…。
再び勇者が目覚めた場所。
そこはオスロ要塞線第3城壁、人魔の傷ついた兵士達が横たわり、自分もその場所に移送されていたようだ。
まだ意識ははっきりしない、朧気な中、近くにネラフィム卿とヤクトバーグ卿の気配を感じ、安心したのか再び深い眠りへと誘われるマーク。
「…マークがこんなにやられるなんて、ネラフィも、それにヤクトバーグが殉死するなんて。もし、もしもだよ?マークが眠ったままだったら…」
「止めろよリューティス!マークは生きてる、そんな柔な奴じゃない!それに俺達がいる、まだ終わらない!」
「けど、けどさ私達だけじゃ、もう戦えないわよソロ。それに星詠みの巫女様の御告げ、貴方も聞いたでしょ?私達は運命からは逃れられない…」
「そんな訳あるかよ!そんな訳…」
弱気なリューティスを励ますつもりが、そのソロまでもが意気消沈し、誰がみても二人は気落ちしていた。
「情けないですよ二人共、まだ貴方達と私がいる。それでは駆け出しの頃に、泣きべそをかいていた時と変わりませんね。星詠みの巫女の御告げを、私達で変えてやればいいじゃない?」
「「…ナナイ様っ!」」
「驚くのは後、私はサマエルのやり方には賛同できない!魔族達ともわだかまりもまだあるが、今は保留よ!私に協力してほしいの二人共!」
「はい、喜んで!」
「わかりましたナナイ様!」
第3城壁に近づく脅威に向け、団結する第3城壁の面々。
人魔の兵士達も鬨の声を上げる。
第2城壁周辺における戦いは、徐々にだが終息しつつあった。
突破力のある部隊である彗星や、数の暴力であった人形部隊達が、軒並み浮き足だち、エンリエッサ率いる第一軍団が盛り返しつつあった。
残るはレジーナ達と死闘を繰り広げている、ノルンの殉死隊のみであった。
「マト!周囲の掃除任せた、一掃してあげなさい。後腐れないように!」
「はいエンリエッサ様!お任せを!」
「やるぞお前達、敵は虫の息だ!後一押しで、ここ一帯はケリがつく」
「人使いが荒いですな、マトさん」
「まったくだ!」
「やりますよ〜!」
魔術兵団の兵士達が口々に愚痴る中、エンリエッサは頭上を見やる。
「ぶんぶんと、汚い羽虫共が!纏めて撃ち墜としたら、さぞ気分爽快に違いない!糸目の奴はどれだけやれるのか、期待外れでないといいわね?」
オスロ上空へ、自ら飛翔し救援へと向かうエンリエッサ。
けらけらと嗤う彼女。
いまや彼女の心中を察する事は、誰にも予測ができない。




