看取る者
勇者マークと堕天使クモの激戦が、第2城壁前の平原で激しさを増す。
勇者の聖剣の神気を喰らい、そこからより強烈な一撃を放つクモ。
反対に勇者は、クモの邪剣より立ち昇る邪気を打ち消すことで、どうにか対抗しているようだった。
剣戟の合間合間に、問いかけるクモ
「マーク、不思議に思わない?人類の守護者を自称しながら、私達と争いあうなんてさ。君とその仲間達も同様に、なにをそこまで貴方達を駆り立てるの?」
「クモ、自分達のしてきた行動の結果に後悔はない!なにより、お前達がいると僕の望む平和とは遠ざかる!人々と脅威となったお前達を、放っておけるはずがない!それが僕の意思だ」
「意思ね、意地とでもいうかな?サマエル様に従っていればいいものを、短き生をより短くして、何の得があるの?」
「今更だよ、クモ…。君と僕は違う、サマエルを盲信するあまり、まわりがみえなくなっているのさ」
「そうね、今更よね…」
少しの問答を終え、クモとマークの互いの視線がぶつかり合う。
論ずることはもう何も無いかのように、より苛烈なせめぎあいが行われ、辺りに生い茂る木々を薙ぎ倒し、平原には両者の血が飛び散っていた。
邪剣フォルティスがより禍々しい邪気を立ちのぼらせると、聖剣セラフィスもまた、神々しさを煌めかせている。
クモは自身の身体をより変化させ、今や身体の大半を異形と化し、相対する。
勇者もその変化を肌で感じとり、紙一重で対応してみせていた。
「マーク、いいや異端。偽善に塗れた正義をふりかざす者よ、私が引導を渡してあげる。この邪剣とともにね…。それで貴方は救済され、光の神の元へと召されることでしょう」
「堕天使クモ、自らの行いを顧みずに、私欲に溺れ見境いなく民達を虐げた罪、この聖剣によって断ち切ってみせる。君はあまりに暴虐だ…」
一瞬の静寂の中、風の凪ぐ音がする。
やがて二人は同時に動き出した、勢いのままに躍り出て、防御を捨て攻撃に重点をおきながらに…。
一撃一撃が重く、腕が痺れ、足が思うように動かない。
それでも戦いを止めない両者、いままでの因縁を断ち切るかのように。
そして勢いを乗せた一発を交差しながらに放つ両者。
お互いの邪剣と聖剣が折れ、根元の柄の部分だけが残っていた。
クモの身体には深々と折れた聖剣セラフィスが突き刺さり、急所を捉えていた。また、マークの身体にも爪痕が残り、交差する刹那、マークの利き腕を邪剣フォルティスが奪っていた。
夥しい量の出血
これは助からないと悟ったクモは、勇者をまじまじと見つめ、虚空を見上げてどこかぼんやりとしていた。
彼女の身体は異形の身体ではなく、元の人しての身体へと戻っていた。
「…結局、こうなったか。けどねマーク、私の意思はサマエル様の意思。…貴方の利き腕を冥土の土産に貰うわ、私は、貴方が、眩し過ぎた。側にいると、貴方の光に居場所を求めたかもしれない…」
「…クモ君は」
「同情なんていらない、…マークの意地が、私を凌駕した。ただそれだけ、それだけの事よ…」
貴方達が羨ましかったのかもしれない、裏仕事ばかりの私達より、貴方達が理想に邁進する姿が、私はどこに向かえばよかったのだろうか…
岩に寄りかかりながら、眠るように息をひきとるクモ。
それを看取り、マークは短く黙祷を捧げながら、クモの邪剣を墓標代わりに冥福を祈っていた。
風の凪ぐ音が、とても穏やかだった




