聖剣と邪剣と
座り込んだままのネラフィムに、心配顔の帝国兵達、彼女にどう言葉をかければよいものか、考えあぐねていた。
その間にも、彼女の体からは負傷した箇所から血が滲み、血液が流れ続け危険な状態であった。
「聖人様!ここは危険ですお下がりを、我々の陣地があるところまでお連れいたします!傷の手当てをしませんと、お身体に障ります。ヤクトバーグ卿も一緒にお連れいたします、どうか!」
「道を開けてくれ!担架あるか?二つ探してきてくれ、大至急だ!」
「立てますかネラフィム卿?」
帝国兵が親身になって手を差し出すのを払い、自分の聖槍を杖代わりにゆっくりと起き上がるネラフィム。
「…私はまだ戦える、敵は何処?私は奴等を、あいつらを…」
「無茶ですよ!そんな身体では!」
「そうそう、どう控え目にみても重症患者よ貴方、虚勢を張るのはよして後方に下がりなさい。それに先程の戦いであれだけの活躍をしたんだもの、誰も貴方を咎めたりしなイ」
「ネラフィム嬢、傷の治療が最優先だ。今無理をすれば、ヤクトバーグ卿も浮かばれない。さ、行きましょうカ?」
「後は任されよ、聖人ヨ」
「そーそー、痩せ我慢は損だヨ?」
「ヤクトバーグ卿のご遺体は、私が責任を持って運びましょウ」
ネラフィム卿の取り巻きの中には、いつの間にか入り込んだリビングデッド達が、ネラフィムを諭していた。
折れたネラフィムは、意固地になるのを止め、素直に申し出を受け、後方に下がることを決めたら。
「ん、わかった、わかったわよ!あんた達の意見に従うわよ。ヤクトバーグ卿…、気張ってみたけど、私達はこのへんで潮時みたいだ。すまないなマーク、君の加勢にはいけそうにないな…」
フトッチョが先導し、ホソミがヤクトバーグ卿の亡骸を担ぎ、その周囲を残りのリビングデッド達と、人魔の兵士達が固めて戦線を後退させてゆく。
その隙間を埋めるかの如く、プリメールとプリメーアの快進撃が続く。
勇者の周囲を警戒しつつも、自身の分体達を辺りにばら撒き、戦意旺盛な様子をみせていた。
「ウナッナ、ナナ?」
「そうねプリメーア、温かな命の灯火と、暗く澱んだ命の灯火が同時に消えた。戦場に変化が起こる、かもしれない。私達は、私達の仕事をしよう」
「ウナーッ!」
勇者の周りに展開する敵部隊を寄せ付けず、そればかりかリビングデッド達が抜けた穴までカバーする二人。
収奪を繰り返すことでプリメーアは体積が膨張し、丸々と肥えた体となり、プリメールは生命力を簒奪したことで、より真っ赤な身体へと変貌していた。
第2城壁前の平原では、クモと勇者が剣を抜き放ちながら、互いの間合いの外で睨みあっていた。
対峙しているクモは、勇者に対し驕りもなければ油断もしていなかった。
最初から自身の左半身を異形へと変貌させて、勇者の挙動をつぶさに見ていた。
勇者が動くよりも速く行動し、動きを先読みして距離をつめ、それで一気に勝負を決めるつもりでいた。
だが勇者もクモの出方を悟り、クモの間合いの外から、攻撃をする魂胆でいるつもりでいた。
「勇者、そこからではあまり顔が見えないでしょう?もっとこちらへ、貴方の死に顔をしっかりと記憶したいの」
「安い挑発だなクモ?それに君の邪剣の性質は前回で経験済みだ、危ない橋は渡るつもりはないんだ。まぁだからといって、このままというのはね…」
「そうだよね?その通りだよ!だから踊りましょうよ勇者、私と一緒に死の舞踏を、どちらかが倒れるまで、永久に」
「御断り、だ!」
クモの速さに対抗するために、クモの背後へ転移してみせる勇者。
そこから怒涛の勢いで攻めたてるも、クモも勇者の行動パターンを熟知し、すぐさま対応してみせた。
一振りで何十もの剣戟を行う両者。
それはまるで、御伽話のようなあまりに現実離れした光景であった。
クモの邪剣フォルティスは、神気や聖気を喰らい、自らの糧とする邪剣。
故に堕落と呼称される。
反対に勇者の聖剣セラフィスは、退魔の剣であり、神敵を滅ぼす性質を持つ。
清廉潔白な清い剣。
互いに互いを喰らいあうような剣を持った両者、それは偶然か必然か、数奇な巡り合わせが彼らを引き合わせ、星々の記憶のもとに定められた、もはや運命なのかもしれない。
不浄なる者と、清廉な者
お互いの意地がぶつかり合う




