散りゆく者達
聖人達と勇者は戦場を駆け回る。
勇者は自身を付け狙うクモを、聖人達二人は星屑部隊を指揮するコルトを目標に、ひた走る。
付近の部隊を骸骨兵率いるリビングデッド達に、プリメール達が引きつけ敵を釘付けにし、自由に動き回ることに成功している点が大きかった。
「まさか勇者達の手助けをするなんてねー、先代の御使い様がご存命なら、暴れ回る事態よねフトッチョ?」
「……」
「なによ?だんまりな訳?」
「まぁいいじゃないハッポウ、僕達は今まで通りに振る舞うだけさ、主人の定めた敵を淡々と処理するだけサ」
「敵を屠れ!お褒めの言葉を賜るのだ、ネコゼよゆくゾ!」
「心得タ」
聖人達の周囲をリビングデッド達が、勇者の側にはプリメールとプリメーアがはべり、血路を切り開く。
「プリメーア体調は万全、かな?敵が多いね、食べ過ぎは禁物だよ。お腹が膨れて、動けなくなるから。それからね、プリメーア…」
「ウナ、ウナナナーッ!」
「ふふふ、わかってる。私も注意するさ、君も真面目なんだから」
「プリメールさんとプリメーアは仲良しなんだね、彼の言葉は僕にはわからないが、信じる仲間がいるのはたのもしいことだ。宜しく頼むよ!」
「勇者も、慣れたらわかるよ。こちらこそと、返事をしておく」
「ウナッ!」
なんとも不思議な会話をしつつ、戦場の中央へとにじり寄る一行。
やがて標的である超越者、コルトとクモを発見すると、互いに武器を構え、視線が絡まってゆく。
あちらもこちらの視線に気づき、臨戦態勢をとりながら近づいてゆく。
「あはっ、マーク見っーけ!貴方の首は私が貰う。コルト、私の獲物なんだから譲ってね!さぁ、どうしてやろう。どう殺してやろう、人々の希望である貴方が妬ましい。貴方が眩しい、貴方が憎い、貴方という存在を認めない!」
「わかってるクモ、じゃあ聖人二人は私が貰うよ?ただ残念だよ君達、サマエル様に背いてまで魔族達と繋がるなんて、哀しいね本当に哀しいよ」
「ぬかせ!僕達は負けない、お前達の指導者たるサマエルは僕らが断罪する!なにより僕は、貴様らの罪はこの聖剣で断ち切ると決めた!」
「まぁそういう事さ!」
「退場願おうか!この大陸から!」
お互いそれ以上の言葉はいらなかった、距離をとりマークはクモと、ネラフィムとヤクトバーグはコルトと、因縁深い相手と対峙してゆく。
最初にコルトが仕掛け、ヤクトバーグがそれを受け止め、ネラフィムが強烈なカウンターを放つ。
コルトの手には、神気で創られた二振りの短剣を握っており、聖人の両者に細かな傷を蓄積させてゆく。
小柄な体型のコルトから連続して放たれる斬撃に、目では追いきれない二人。
「ぬぐぅ、これは凄まじいな!あの者に一太刀浴びせたマークも大概だが、負けてはおれん!奴を見過ごせば、それだけ不幸になる者が増える!」
「当たり前だヤクトバーグ!私が攻めで、貴方は守り!役割を分担するよ、奴を仕留めるわよ!」
「はん、やってみなさいよこの腐れ聖人共がっ!あんた達の替えなんてすぐにでも見つかるのよ!だいたいさ、サマエル様に楯突く愚か者が、どうやって私を倒すと言うのよ!」
事実コルトの言う通り、聖人二人の攻撃はいなされ完全に防御され、聖なる祝福を受けたはずの防具には損傷箇所が目立ちはじめていた。
コルトの攻撃の勢いは増すばかりで、鋭い斬撃が、聖人達の出血を無視できない量へと変化してゆく。
「あらあら〜顔が苦しそうだよ?もし赦しを請うなら、勇者の首を私達堕天使の前に出しなさい!まぁ、私の気分次第なんだけどさ、そろそろ死ぬかい?」
二人の出血量を見て年長者であるヤクトバーグは覚悟を決める。
ネラフィム卿に比べ自身の傷はあまりにも深い、聖鎧は既に砕け、残るは生身の自分の身体と、ネラフィムの聖槍のみ。
ならば、手段は一つだ…。
コルトの前に進み出て、自身の身体でコルトの二振りの短剣を受け止め、筋肉を締めて抜けなくすると、そのまま羽交締めにして束縛する。
「やれーっ、ネラフィム卿!俺もろともで構わん!こいつをやるんだ!」
「な、なにをヤクトバーグ!そんな事したら貴方が…、それに貴方の息子さんに奥方だっているじゃない。嫌よ!私はそんな仲間を切り捨てること!」
「こいつ、気でも触れたか!離せ、離せよこの劣等種がっ!」
問答をする間にも、ヤクトバーグの身体に短剣が深く抉り、内蔵などの臓器から傷がつき、出血が止まらない。
コルトを羽交締めにするヤクトバーグの手から力が抜け、拘束が徐々に緩んでゆく中、ヤクトバーグは叫ぶ。
「急げネラフィム卿!そして思い出せ教会の教義である我らの存在意義を、ぐっ、光の神の敵を討て!ネラフィム卿ーっ!やるんだ!」
「糞、この死に損ないが!どこからそんな腕力がっ、瀕死のくせに!」
「…⁉︎ヤクトバーグ、歯を食いしばりなさいよ!大衆の脅威は、我らの武力によって討ち払う!」
「堕天使コルト、覚悟っ!」
聖槍を伸ばし、ヤクトバーグもろともコルトを串刺しにするネラフィム。
彼女の顔からは涙が溢れ、聖槍からはコルトとヤクトバーグの身体を貫く感触が、じんわりと伝わる。
「…あぁ、そんな、こんな事私は認めない、サマエル様、私は貴方様の夢を共に見たかった。ノルン、ノルン寒いよ、身体が凍えるようだ。私は…まだ君と、一緒に、ずっと側に…ノルン」
私はいったい何をしたかったのか…
聖槍によって穿たれた胸を触りながから、ゆらゆらと歩き、やがて自分の血溜まりの中で眠るように息絶えるコルト。
今際の際、彼女は何を思ったか…それは誰にもわからない事だった。
「ヤクトバーグ!しっかりしなさい、頑丈さが貴方の自慢でしょ、あぁ血が止まらない。私はまだ未熟者なんだから、貴方だけ先に逝くなんて、私が許さないわよ!目を開けなさい!」
「…、最期は同僚の胸の中と決めていたが、まさかお主とはなネラフィム。一つ頼まれてくれるか?息子がいるんだが、戦いが終わったら会いにいってくれるか…。女房似で、俺には似てないがな。寂しがり屋なんだ…」
「うん…わかった!約束するから、ヤクトバーグ!目を開けて、まだ諦めないで!諦めた顔しないで!」
「鬼の目にも涙か…。光の神のご加護がありますように、…ではなネラフィム卿、また、いずれ、…な」
「ヤクトバーグ?ヤクトバーグッ!」
人形部隊の長であるコルトが死に、聖人であるヤクトバーグもまた息を引き取り、穏やかな笑みを浮かべていた。
「ヤクトバーグ…」
ネラフィム卿は暫くその場でうずくまり、自分達の指導役であったヤクトバーグの側から離れられなかった。




