天地を穿つ(3)
オスロ要塞線、第1城壁外に無数に広がる防御施設に、数多の伝令達が向かったのはそれから直ぐであった。
噴煙がくすぶり、最前線では血みどろの攻防線を、人魔と星屑部隊が繰り広げている最中であり、数々の戦場を渡り歩いた伝令達も、身が竦んでいた。
伝令達の多くは上官からは詳細を聞いておらず、ただ後退しろとしか伝え聞いていない、これでは前線と軋轢が生まれるのは必然であった。
鬼気迫る表情と怒号をあげる前線兵士達に、たじろぐ伝令達。
「伝令は以上となります!」
「以上だぁ?いったい誰の指示か?退却しろだと、我々はまだ戦える!そんな指示をだした臆病者は叩っ斬ってやるっ!それよりも応援をよこしてくれ、第1城壁には相当数いるはずだ!数が足りない、はやくせんと勢いを止めきれん!」
「命令は退却ですし…」
「おいあんた!手を貸してくれ、こいつは急がないと危ない。止血帯と痛み止めはまだあるか?よこしてくれ!」
「私は一介の伝令ですよ?」
「おいおいそんなお上品な物とっくに完売だ糞ったれ、我慢できなくなったやつからさっきからくたばってるよ!医者や看護師さんもやられて、お手上げ状態なんだよこっちは!ここは野戦病院という名の集団墓地だ!」
帝国のやぶさかな対応に、居心地を悪くする伝令に、人混みを掻き分けて近づく一人の魔族がいた。
「おい伝令、さっきの指示はたしかに業魔将バンネッタ様の命令か?嘘偽りなく真実であると誓えるか?」
「本当です!これが第1城壁の将軍と、北部連盟の方合同の命令書です!」
まじまじと命令書を見つめる魔族に、周りにいた者も集まりだした。
「本物か?」
「この荒々しい筆跡はたしかにバンネッタ様のモノだ!だがどうして?退いたところで活路なんてあるのか?」
「あるのさ!あの方は会戦の時も、我々下っ端を見捨てなかった。信じる理由がそれじゃダメかい?」
「違いない!信じるとするか!」
「おらぁー穀潰し共移動だぁ!第1城壁まで下がれぇ!はやくせんと御使いリーゼ様の力で尻の穴まで焼かれるぞ!急げ、急げ!あの方は容赦せんぞ〜!」
北部連盟の者達と一緒になり、帝国の部隊に発破をかけていく。
渋々ながらに後退する帝国軍の中には、かつての会戦に参加していた兵士達が一目散に後退してゆく。
オスロ要塞線より遥か後方にあるローガルド要塞、そこでは二基の魔導砲が射撃準備をしつつ、第三軍の主人たるイシュガルの合図を待っていた。
「魔導砲、まもなく臨界点をむかえます。炸薬、魔術術式共に正常なり。角度修正プラス5度、風速計測せよ」
「了解!」
「圧力器正常、砲身異常は見当たりません!冷却怠るな、発射後は放熱に十分注意せよ!放熱とて侮るな!」
イシュガルの副官たる梟面の男は懐中時計をみやり、その時を待つ。
そして…
「目標を伝える、オスロ要塞線第1城壁前平原部、目標を復唱せよ!」
「オスロ要塞線第1城壁前平原部、了解いたしました。ただちに発射しますイシュガル様!」
「各員仕事にかかれ!魔導砲起動、目標に向けて壱番機、および弐番機は砲撃を開始せよ!粉砕しろっ!」
オスロ要塞線に向け、巨大な光がローガルド要塞より放たれ、二つの閃光は放物線を描くように、ゆっくりとゆっくりと弧を描いていた。
破壊の光はどこまでも幻想的であり、真っ白な箒星のようであった。




