共同戦線
ミミイと名乗る魔族との取り決めで、我が救国同盟軍と北部連盟での盟約がとりあえずは成立した。
その魔族は小型の水晶球に向かって、今回のあらましをまるで独り言のように、自らの上官に報告している。
なんでも、魔族軍の中でも大変貴重な魔導具らしく、量産には至ってないそうな話を聞いた。
魔導具を持つ遠距離にいる者同士と即座に繋がり、鮮明に相手の声が相互受信可能なのだとか、魔族側の隠し玉の一種のように思える。
オフィーリアやレイノルズ、勿論儂も、初めてみる魔導具に目を丸くし、実際に他人の声がするのには、度肝を抜かれたものであった。
ミミイ殿の話では、現在ローガルド要塞近郊に北部連盟の軍が集結中であり、一週間以内には先遣隊が、このオスロの地に着陣し、そこから順次合流してゆく手筈なのだそうだ。
そこから数日間は、ミミイ殿の希望により、オスロの内壁や、防御陣地、帝国兵の暮らし振りなどを見て回っていた。
「ルバルフ卿、城壁を築くのはいいが対空防御の設備が貧弱な気がする、対地設備だけでなく、空からの備えをさらに増強してみては如何だろうか?僭越ながら空中から敵陣を荒らす者としては、城壁と城壁を繋ぐ連結部分がとりわけ防御が薄いと感じるが」
「ふむ左様であるか。すぐに手配しよう、屈託なき意見実に参考になる。レイノルズ、工兵達に追加の作業を要請したい、手の空いている者はおるか?」
「城壁の補強工事が完了している、第二城壁の者達をすぐに割り当てましょう。なるべく突貫工事をさせ、速度を維持するように触れをだしましょう」
「連結部分か、屋根付きの通路みたいなものだからたしかに脆弱な部分だろう、上から見れば一目瞭然なのね!レイノルズ卿、私の部隊からも人手を派遣しましょう!ミミイ殿、他にはないか?」
「そうですね上空から見た限りでは、塹壕線が直線的なのが気になりました。湾曲していた方が、攻めずらく守りやすいでしょう。突端部には、土塁を積み上げて高低差をいかすべきかと」
「なるほど空から見れば、この地の問題点がこれほど浮き彫りになろうとはな、私の手勢のもので対処しよう!」
指示を受け、きびきびと働くレイノルズ卿とオフィーリア卿の部隊員達。
泣き言を漏らさず、不平不満を漏らさない兵士の鑑のような者達に、ミミイも満足気な表情であった。
だが、オフィーリア卿はどうしてもミミイに聞いておきたい事項があった。
「ミミイ殿、違っていたら申し訳ないのだが、連れの方々は、どうみても日向ぼっこしながら昼寝していないか?」
「昼寝ですね…。私の姉妹達であり、妹達なのですが、どうにも自分の欲求に素直過ぎて、我慢ということを知らないのです。戦闘面に関しては申し分ないのですが、自由奔放な部分が多々あるのですよオフィーリア卿…」
「…そうなのですか⁉︎いや責めてる訳ではなく、自然体で堂々としているので、つい質問をしてみたく、会談中は凛々しい顔つきでしたので」
スヤスヤと大木の下で、木漏れ日を浴びながら昼寝をする二人。
その側には、野鳥たちや小鳥達も集まりだし、不思議な空間と化していた。
長女であるミミイという魔族は苦労が絶えないのだろうと、オフィーリアは感じるが、それが私達を欺くものであったならば、よほどの策士だとも感じ疑心暗鬼な心境となっていた。
二人はただ寝ているだけなのだが…
そこからさらに数日後には、ミミイ殿の言った通りに、北部連盟の先遣隊の一軍がオスロの地に参集した。
魔族達メインの編成で、少ないながらも、亜人や人族の部隊も散見された。
特徴的な半月を模した軍旗を、高々と掲げ、規則正しく行進する一軍。
強面の獣人達の他には、ゴブリンやトロル、オークやオーガなどの各部族が隊旗を掲げて、自身の存在を誇示しているかのような陣容であった。
一軍中央が縦に裂け、狐耳族の獣人の女性と、各部族の戦士長が揃ってオスロの城門に向かっていく。
味方であると理解しても、内心戦々恐々とする帝国兵達。
つい最近まで争っていた存在に、自然に身体が強張っていた。
「任務ご苦労!私達は、バンネッタ麾下第二軍所属のティナ連隊である!加勢に参上した、門を開けよ!」
細身の身でありながら、大音量で叫ぶティナという魔族に対し、帝国兵も負けじと声高に叫び返す。
「連絡は受けている!開門いたすゆえ暫し待たれよ、そなたらのご加勢誠に恩にきる!このご恩は末代まで語り継ぐことを約束すると誓おう!」
そこまで言い終わる番兵に、ティナとその周辺の魔族からは、クスクスと声を押し殺した笑い声が上がる。
「ふふふ、いや、すまない。慣れないことをしたと我ながら思ってね、私が先遣隊代表のティナだ。この者達の顔は凶悪だろう?仲間内でも泣き出す者がちらほらいるんだ、君達も泣かないように気をつけほしいな」
「ひでぇなティナさん!」
「凶悪面かぁ、そんなにか?」
「鏡見てみろよ?凶悪そのものだ」
口々にやっかむ部下達に対しても、変な敬語が抜けない番兵。
「…緊張しましたゆえ、以後気をつけますティナ連隊長殿!さぁどうぞお通りを、将軍閣下がお待ちです!」
「貴方も真面目ねぇー」
ゆっくりと城門をくぐってゆく先遣隊の面々、その後続々と後続が到着し、軍団の規模は膨れ上がっていった。




