閑話 決戦前夜(前編)
ハーピー達三姉妹から、帝国の救国同盟軍との共闘の約定を取り付けた連絡をうけ、北部連盟率いるリーゼは、全軍をローガルド要塞周辺の広大な練兵場に集結させつつあった。
しかしまだ完全な状態とはいえず、数日をかけてローガルド要塞で各国の軍勢の着陣を待っている状態であった。
一足先に着いた軍団から、壮行会をかねた親睦会が執り行われ、連日お祭り騒ぎであった。
そんな中、リーゼをはじめとした指導者達は、サマエルの軍勢と如何に対峙し、攻略するかの軍議の最中だった。
「敵は帝都を陥落させた後、軍団を二つに分けた。一方は周辺諸国に繰り出してゆき、もう一方は帝国内を荒らしに荒らしている状況ね。救国同盟軍の籠るオスロに帝国が戦力を集中させてる今、敵も当然再び一つにまとまると考えられる。常識の通じない相手との戦いだ、これまで以上に厳しい戦いね…」
「侵攻力と浸透力が尋常ではありませんぞ!こんな敵に会戦を挑むのは、ちとしんどそうですわい、老骨に鞭打つとしましょう。願わくば、この大陸最後の戦としたいものですな」
「そうでありたいものよ。だが、州都ヤハウェが抜かれたとなれば、いよいよオスロも主戦場となりましょう。帝国の残存勢力のほぼ全軍と、我々北部連盟の軍団とで、はたして敵の軍勢は止めることは可能でしょうか?」
「止めねばならんのだよ、侵攻を受けた地域や国は、文明や文化、人々の暮らし全てを破壊されたと聞く。後にはなにも残さないなんてのは、狂気の沙汰だ。とても正常とは言い難い」
ウェルドア王国のジョン国王の言葉に、セプト自治州と、ランバルディア藩主国の代表が揃って頷いてゆく。
「私達が一丸となり、この大陸から巨大な病巣を取り除きましょう。自らを神の代行者と妄信する、憐れな天使に引導を渡し、戦乱の世を終わらせる!」
リーゼは大陸の詳細な地図を開き、オスロの地形を確認しつつ、再度細かな陣立を考え、兵の運用を思案する。
ジョン国王達も交え議論を重ね、夜遅くまで続く激論となっていた。
指導者達が頭を抱える中、兵達はここぞとばかりに羽根を伸ばし、各国の兵士達と親睦を深めていた。
レジーナとプリメール達は、セプト自治州の亜人達と飲み比べの真っ最中であり、顔を真っ赤にする兵士が大勢いる中、プリメールとプリメーアは底なし沼のように酒を飲み干し、次なる酒樽を開け、辺りに勧めている。
「ウナ!ウナウナナッー!」
「ほら、この程度でへばるなんて、普段怠けている証拠、ってプリメーアも言っている。お酒もっと、飲む!」
レジーナにいたっては悪酔いし、完全に絡み酒となっていた。
「あぁんだと?私ぃの酒が飲めないなんて、どーゆうことぉよ?同じ北部連盟なら、朝飯前でしょ〜!ほらっ、ぐいっと、ぐぐいっと!」
「いや、私はそんなには…」
「うぷっ、水が、欲しいです」
「レジーナさん、勘弁して下さいよ!」
ガヤガヤと騒ぎながら飲む者達もいれば、静かに戦友達だった者を偲び、飲み交わす者もいた。
先の会戦で戦死した、ヲイスとルルドを思い、二つの盃に酒を並々注ぎ、ティナは月見酒をしていた。
「次が最大の戦になりそうだよヲイス、ルルド、我武者羅にバンネッタ様の背中を追い続けていたが、いつも二人に助けらていたように思うんだ。二人の仇である勇者との共闘に、正直納得はいかない。だが駄々を捏ねるのもみっともないだろ?だから二人の分まで私は頑張るよ、皆もそうだろ?」
「副長には我々がついてます!」
「ご安心をルルドさん、ヲイス副長!」
「精々暴れ回ってやりますよ、新生第二軍の底力、みせてやりましょーよ!」
口々に騒ぎ出す第二軍兵士達、ティナは目を細め、二人がそこにいるかのように盃を掲げて、一息に飲む。
「愉快な仲間達だろ?中には教育下手な私が育てた者もいるんだよ。だからどうか見ててね、最善を尽くすよ」
天幕から外れた一角では、業魔将達が集まり、率直な意見を出しあっていた。
「リーゼ様も数奇な運命のお人だ、人族と争っていたかと思えば、今度は一緒の陣営で共闘する事になろうとはな。こんな事はいままで一度だってなかった、だから何故だか嬉しいのかもしれない」
「へぇイシュガルにしては珍しいわね、そんな複雑な感情を吐露するなんて。きっと明日は雨ね、いやもしかしたら雪かもね。まぁ天魔戦争以前の、人族が良き隣人であった時代に戻るのも、まぁ悪くはないかもね。私の願いでもある、魔族の庇護に繋がるのなら」
「ふははは、なんだなんだ?二人とも穏やかな顔をして、昔を懐かしむご老体のような表情だぞ!もっと野性味あるぎらついた表情こそが、お前達にはお似合いだろうによ!」
「違いないな…」
「私にバンネッタが意見するなんて、一世紀程早いのよ、まぁ悪くはない気分とだけ言っておくわ」
「ぬ?調子が狂うな。いつもとはまた一味違う返し方だな?」
昔馴染みの三人の話は、夜が明けるまで和やかに行われ、酒の空瓶が何本が転がる側で、寝息をたてていた。




