訪問者
ルバルフ卿率いる救国同盟軍が籠る、帝国北部オスロ要塞線、元は魔族側のローガルド要塞に対抗するために造られたものであり、近隣諸国が抜かれた場合の備えの一つでもあった。
長大な城壁を誇り、自給自足の施設に加え、帝都に政変が起きた際の、避難場所という意味合いもあった。
今その場所には、助けを求める帝国の避難民達が大挙して押し寄せ、サマエルの軍勢から逃れるように北へ北へと押し寄せていた。
明日の暮らしも分からぬ現状に、民達は不安に怯え、軍の多くが集結したこの要塞線に救いを求めていた。
我先にと城門には人がごった返し、無用な諍いまで発生し、治安が良いとは言い難いものであった。
「ちょっと!私が先よ、あんた割り込みはよしてよね!後ろに並べばいいじゃないのさ、どきなさいよ!」
「帝国はこのまま亡国となるのかの。先帝様が亡くなったのは、なにかの因果かもしれん。兵隊さんや、戦況はどうなんじゃ?まだ戦えるのか?」
「俺は戦えるぞ!先祖代々化物達と戦ってきたんだ、これぐらいの逆境ではめげはせぬは!武器をくれっ!」
「帝都も陥ち、州都や都市部も次々に陥落しているそうな、光の神様が争いを止めぬ我々に、裁きの鉄槌をくだしにきたのかもしれんな。我らにできることは、天に祈ることぐらいだ…」
「落ち着かんか!みだりに騒ぐ者は取り締まる、ここにはルバルフ卿やオフィーリア卿、レイノルズ卿もいらっしゃるのだ!そう簡単には陥ちん!」
「鎮まれ!鎮まるのだ!」
口々に不平や不満を吐露する民衆達、彼等の怒りの矛先がこちらに向かぬように、帝国兵が騒ぎを鎮めるのに躍起となっていた。
彼等も誰かにすがりたい思いであった。
本来なら外側に備えるはずの要塞線の内側に、水堀や空堀、塹壕に馬防柵、野砲に大口径の要塞砲の向きを置き換え、集められるだけのありったけの銃火器、武器弾薬を掻き集め、考ええる策を残らず使い、敵の進入に備えていた。
「今、聖女の軍勢はどの辺りだ?」
「わからん、州都ヤハウェの守備隊との連絡が途絶えた事から、多分もうここから目と鼻の先にいるんだろうよ」
「魔族じゃなくて、まさか信仰すべき対象の聖女様方に攻められるとはな。なぁ俺たちは、罪深いのかな?」
「わかんねぇよ…ただ、」
「どんなに罪深くても俺達には、明日を生きる権利があるんだ!こんなわけわからんとこで死ねるかよっ!」
「へへ、酒飲み野郎の大食らいの、給料泥棒が良いこと言ったぞ!」
「やるぞ馬鹿野郎共!」
「あぁそうだな!」
「歩哨を増やせ、連絡を密にとり、連携しろ!軍団の諍いなんてプライドは、どっかに置いてこい!」
沈痛な面持ちであった兵士達に活力が戻りはじめ、自らを鼓舞してゆく。
そんな喧騒を縫うように、上空からハーピーの三人組が兵士達の気勢を上げる中央に舞い降りてきた。
「…なっ、なんだお前達!どこから入ったのだ?この地に何用か?」
「落ち着け、戦いに来たのではない人の子よ。勇者達との共闘の同意を得られた今、この地の帝国軍とも連携をとりたいのだ!指揮官は何処か?速やかに行動せねば、天魔戦争とは別の危機で差し迫っているんだから!」
「それはわかっているが!お前らは何を企んでいる?敵同士だった我々が、いきなり仲良くできるはずもなかろう?」
「鳥野郎どもがっ!鳥籠に帰んな!」
「…こいつらむかつく。ミミイ姉どうするの?一思いにさぁ、サクッと」
「やれ〜メメイ、私も協力する!」
「協力するな、少し大人しくしていなさいあんたらは。ここの現場指揮官は貴方かしら?過去を水に流せとは言わない、ただもし、人族と魔族が別々に戦うならば、各個撃破されるのがオチだ。一緒に戦ってみないか?」
あっけらかんとしたハーピーの二人とは別に、青い軍服を着こなすハーピーからは特異な気迫を感じた現場指揮官。
真剣な表情に応えるように、現場指揮官の士官も返答する。
「信用していいのか?」
「信用してほしいな?でなきゃこんな所に三人では来ないさ、この大陸を愛する者同士、好きにはさせないさ!」
「わかった、案内しよう!」
ミミイ自ら差し出した手を、現場指揮官も握手で応じ、信頼関係を築いてゆく。それはまるで、人魔が交わり共に繁栄した時代の再来のようであった。




