狂気の軍団
ハンベルニア城にいる勇者達のもとに、マト達が辿り着く少し前、帝都フェルテネーブルでは激震が走っていた。
サマエルは中央教会としての聖女イズマイルとしてではなく、大天使サマエルとして行動を開始した。
帝国創立記念日に毎年催さる閲兵式にて、大陸各国の代表団や招待客に対して、突然の宣戦を布告する。
「聖女イズマイルの名においてここに宣言する!このヴァスティーユ大陸は今、穢れに満ち満ちている。ネルト帝国、ひいては私の意思の元に大陸は統合され、再び一つに創生するべきである。その為にまず、私は各国の皆様方に宣戦布告する!人族も魔族も等しく絶やし、全てを無にした新たな世界で私イズマイルは、いや、大天使サマエルとして責務を果たそうと思う!だから皆様方安心して逝ってほしい、どうか光の神の福音を享受できるよう切に願います。そしてさようなら皆様方、どうか健やかで…」
戸惑う者達に、突然に死を迫る聖女。
当然最初は聖女の質の悪い悪戯かと、訝しみ、質問する群衆達。
「どういうことだい?」
「聖女様?」
「一体何を言っているの聖女様?」
「おいら学がないから、聖女様のおっしゃる意味がわからんのだが?」
「中央庁の新しい演出かしらね、寄付金集めの宣伝よきっと。魔族達との戦争には金がいるものね」
「聖女様、祝いの場の席であまりにも不謹慎ですぞ!いくら聖女といえども看過できん!正式に中央教会に抗議し、しかるべき謝罪をしてもらうぞ!あまりにも不愉快だ、私は帰らせてもらう!」
「旦那様、お待ちを」
口々に騒ぎだす群衆達、それを仮面で顔を隠し、逆さ十字の外套を着た天秤部隊達と天使達が、強引に黙らしてゆくことで、人々はそれを現実として受け止め、恐慌状態へと陥っていく。
何の罪もない民衆達が、無作為に虐殺され、帝都の通りは民衆達や各国の代表団、招待客の死体で溢れかえっていた。
赦しを請い罪を懺悔する者や、一目散に逃げ出す者、家財を抱え呆然とする者、家屋に隠れる者などを見つけては殺し、見つけては殺してゆく天秤部隊と天使達。
サマエルの狂気が伝染したかのように、帝都フェルテネーブルに情や理性などは存在しなかった。
騒ぎを聞きつけた帝国のフバルフ麾下の中央部隊が帝都に到着した頃には、まさに地獄の光景が広がっていた。
街灯には市民達の死骸がそこかしこに串刺しにされ、四肢をバラバラにされた死骸が通りを埋め尽くし、まるで赤い河のように死体から流れでた血液が、充満していた。
大陸一と言われ栄華を極めた帝都は、僅かな時間で生者のいない死者の都へと様変わりしていた。
それを通りを見渡せる演台の上から見渡すサマエルは、平然としていた。
純白の天使の羽をはためかせながら、純白とは程遠い地獄絵図を見ながらに…
「聖女の奴、トチ狂ったか!天使だか知らないが、あれじゃあ悪魔と変わらん!総員あいつを殺せっ、市民達の救出をいそがせろよ!あの野郎にこの報いを受けさせてやる、陣を展開せよ!」
「所属不明部隊は敵として処理せよ、奴等の尻に鉛玉をねじ込んでやれ!銃隊と砲兵隊の三斉射の後、軍団長は部隊を突入させろ!いいか?」
「……」
「返事はどうした軍団長?まさか億したのか?私とてこんな異常事態初めてなのだ、平時の訓練はまさに…」
「…エル様に、逆らう者には、」
「なんだ、軍団長?」
「…死の救済を!」
救援に駆けつけてきた部隊同士で、同士討ちをはじめる帝国軍。
銃隊と砲兵隊を撫で斬りにし、師団長と軍団長の部隊が激突する。
それが小康状態になると、天秤部隊の者達が最後にトドメを刺していく。
仮面の軍勢の中心からは聞き覚えのある声と共に、ラッパの音色と一緒に鐘の音がどこまでも響き渡っていた。
勇者と激闘を演じたコルトが聖遺物であるラッパを吹き鳴らし、ノルン率いる人形部隊達が、確実な死を帝国軍に与えていく。
コルトの奏でる音色には、錯乱と狂乱を揺り起こす二重の音色が反響しており、途方もない音を響かせながらに、帝都を包みこんでゆき、帝国軍同士だけでなく、民衆達にも伝播してゆく。
小さな子供や、婦人が、紳士が、老人が、あらゆる年代の者達が、血の色に酔いしれ、血の色に溺れてゆく。




