異形の軍勢
イベルタ皇国の皇都ノルトバイデンを眺めながら魔族の軍勢は、数キロ先の森林地帯に本陣を構えて最後の小休止を行っていた。
本陣の上空には、偵察を終えたハーピーや翼竜達が続々と帰陣しており、慌ただしい雰囲気を醸し出していた。
本陣の側の大木の下には、軍団長であるエンリエッサとリーゼ、副将に第一軍と第三軍の副長達が参集し軍議の真っ最中であった。
「ワガ部隊ガ先鋒ヲツトメヨウ、彼ラノ籠ル城壁ナド踏ミクダイテクレル…」
「なにか仕掛けがあるにしろ、まずは攻撃して様子を見てみます。考えるのはその後で、それに皆気が昂ぶっています。どうかご指示を!」
身の丈50m以上ある単眼の巨人族であるサイクロプスの戦士長ヲイスと、狐の耳と尻尾をもつ獣人族の女性戦士長ティナは、血気盛んな第一軍の副将達であり、今にも飛び出しそうな勢いだった。
「今偵察隊が皇都周辺に展開中だ。もう少し忍耐を覚えろ脳筋共が、過去の失敗からなにも学べんのか?魔族全体の尖兵たる意識を持てと言っている」
「しかり、しかり」
第三軍の副将は、二人とも動物の仮面を被り、ローブで全身を覆っていて表情がわからない。だが、第一軍の副将達を牽制しつつ軽蔑するように吐き捨てた。
「技術屋が偉そうに…」
「小サキ者共メイワセテオケバ…」
「そこまで、今回は第三軍の副将達の意見を聞くべきだろう。先程伝令より、ノルトバイデンに接近した偵察隊がまとめて消し飛んだそうだ。聖人のどちらかの仕業だろうが、小賢しいことだ」
「なにか策があるのかしらエンリエッサ?良い表情してるわよ」
「はいリーゼ様、ヲイス達に協力してもらいます。お前達ならこれを扱えるだろう?期待しているよ」
「ハッ…オオセノママニ…」
荷馬車よりおもむろにでてきた物は、エンリエッサお手製である魔術の模様が刻印された巨大な鉄杭のような物だった。
フランチェスカの展開した結界、聖光壁は邪なる存在が触れると、たちまちに神気が対象に流れ込みその存在を浄化させるという一大魔術であった。
それをドーム状に展開し、皇都全体をすっぽりと覆うように万全な構えをとっていた。
「フランチェスカ殿、魔族の偵察隊の一団が消し飛びましたよ!奴ら及び腰になって攻めよせてきませんよ」
「うるさいっ!気が散る。この結界は気力と体力を…随分と消耗する…みだりに騒ぐことなきようお願いする!」
「もっ…申し訳ありません…」
「っ⁉︎」
「フランチェスカ殿?」
「ぐっ…この重圧はっ…なに?」
宮殿の庭園で術式を展開し続けるフランチェスカの腕に、突如として負荷がかかり始めた。それはやがて身体全体に及び苦悶の表情となっていく。
目や口からは、うっすらと血が流れ続けてフランチェスカの衣服を濡らしていた。
空中には幾つもの鉄杭が結界に刺さり、なにもない空間で静止している奇妙な光景が広がっていた。
エンリエッサは、ヲイス達が結界に投げ入れ続ける鉄杭を見ながらとても悦に浸っていた。
城壁の一箇所に集中して投げ入れることで、一点突破をはかっていた。
杭には、亡者達の嘆きや悲しみが満ち満ちており、杭全体が呪いを発現する装置となっていた。
杭全体 を呪法で覆い、邪である物を聖なるものとして結界を誤認させる印を結んでいた。
それが数十本程ささったことで結界全体に亀裂が走り、やがて亀裂は裂け目となり部分的に結界は消失した。
杭からは不気味な呪詛を吐き続けており、怨嗟の声が術者の消耗を促進させていた。
「さぁお前達出番だよ。邪魔な障壁は取り除いた。後は、中に籠る哀れな子羊達をどう料理するかだけよ…いけっ!」
その指示のもと悪鬼の集団が、猛然と皇都の崩れた結界目掛けて殺到した。それを阻止するために城壁からは、弓矢や魔法が雨あられと降り注いでいた。
戦いは、長く辛い消耗戦の様相を見せ始めていた…




