正義の証明(2)
城内に入ってすぐの開けた場所で、聖遺物を持つコルトと、聖剣を持つマークとの戦いが続く。
コルトは聖遺物であるラッパをしまい、聖気で精製した短剣を二振り持ち、勇者の攻撃をヒラヒラとかわしていた。
かわしながらにマークに囁き声で話しかけるコルト。
「感情や性格は、人の性質であり本質でもあるのよ…」
「勇者君、君達人は常に感情に支配されているのさ、現に今君も、私への怒りという感情に支配され激情に駆られている。ましてや正常な判断が麻痺して、冷静になれていないのさ〜」
「なにを根拠に、出鱈目を、言うな!」
「ほらほらそういうとこさ、私に一撃入れられないようじゃ、サマエル様はおろかクモさんにも遠く及ばないよ。残念だなぁ、実にがっかり…」
コルトはしきりにマークを逆撫でする発言を繰り返し、勇者の意識を誘導し、攻撃を単調にする狙いがあった。
聖遺物を用いずとも、コルトは感情を支配する術を心得ていた。
「つまらないよ勇者君、本当に退屈な時間だ。もしかして、君の身近な人に危険が迫らないと、燃えない人かな?なら後ろにいる、白髪の女性を面白おかしく演出してあげようか?それなら君も…」
「リューティスには触れさせない、お前は許さない!許されない…」
知らず知らずにコルトの術中に嵌り、意識の混濁している勇者を見て、思わず笑みを深めるコルト。
これならば籠絡できると、そう考えていた矢先に、勇者は自身のこめかみに拳を打ちつけ、痛みの感覚により無理矢理に意識を回復した。
「コルト、お前の腹芸はたいしたもんだ。称賛物だよ、ただね人はお前の思っているほど以上に、厄介な存在だということを教育してあげるよ。授業料は君の生命を代価にもらうよ!」
「…やれるもんならなっ!クモさんの獲物だろうが関係ない、人形部隊部隊長コルトの名に懸けて、貴様を討つ!」
両者は鍔迫り合いから、上下左右あらゆる角度からの技の応酬が飛び交い、その刹那の攻防で軍配が上がったのは勇者であるマークだった。
コルトの肩から脇にかけて鋭い一撃が入り、夥しい量の血が噴き出していた。
コルトは苦しそうに呻きながら後ずさり、勇者と距離をとろうとするが、勇者の追撃がそれを阻止する。
「ぐっ、こんなはずじゃ…。勇者と私の戦いは五分だったはず、読み違えたのでもいうの!一体あんたなんなんだい…」
「この一撃に、ハンベルニア城の守備隊の無念を乗せる!覚悟っ!」
「…⁉︎」
鈍く響く金属音が辺りに響く、もう一人の人造天使であるノルンが動く。
「コルト、熱中し過ぎですよ!貴方がいないくなると、私の毎日に彩りが欠けてしまう。注意して下さい」
聖剣を素手で鷲掴みにし、コルトの前に立ち塞がるノルンの姿があった。
聖人達も勇者より一歩前に踏み出し、ノルンと対峙する姿勢となる。
「四対一で勝てるつもりかしらノルンとやら?どのみち、サマエルの居場所をあんたから聴かないといけないから、大人しくしてくれないかしらね?」
「マークよ少し休んでおれ、次は私達が意地を見せるのでな!」
「わっ、私も頑張るんだから!たまにはかっこつけさせなさいよ馬鹿マーク!」
「俺の出番だなマーク!」
各々の聖人達が意気込む中、ノルンは冷静に返答する。
「そこまで傲慢ではありませんよ、ただ残念でなりませんよ。帝国から離叛者が出たことがです。貴方達の未来は閉ざされ、サマエル様の怒りを買った。弁明の機会を私が仲介いたしましょうか?」
「誰がするか!」
「御断りだね、馬鹿!」
「私の道は、私で決めます!」
「胡散臭いんだよ、この糸目が!」
「僕も皆と同意見だ!」
口々に恨み言を呟く聖人達と勇者、ノルンはそれを聞きながら、一息溜息を漏らして周囲を一瞥している。
「左様でございますか、では理解し合えないなら、殺し合うしかありませんね。原始から続く普遍的なルールにのっとり、ね。しかしながら、コルトの容態が心配です。お前達、その身に秘めし内面をさらけ出し、勇者達の相手をなさい」
「「御意に…」」
ノルンとコルトの部下達は、人の皮を脱ぎ捨てると、本来の姿をさらけ出す。
元に戻る術をなくした人外達が、勇者達を誅殺せんと殺到した。




