正義の証明(1)
勇者はいてもたってもいられなかった。
自分達が匿われた場所からでも、戦闘の音が激しいものだとわかるほど聞こえてきたからだ。
ハンベルニア城城内からは、幾つもの火の手が上がり、不安を掻き立てるのには充分だった。
今にも飛び出しそうなマークを、ヤクトバーグが引き留め、ネラフィムとソロが勇者を羽交締めにする。
リューティスはおろおろしているが、必死になって出入り口を封鎖した。
「離してくれヤクトバーグ、ネラフィにソロも!ハンベルニア城主に、僕はまだなにも恩返ししてないんだ!今窮地なら、僕がいかなきゃならない!」
「戯けたことを申すなマーク!何の為に城主が必死になっているか、よく考えよ!今お前が行けば、城主達の努力が全て無為に終わる!そればかりか、天秤部隊の増援を呼ぶことにもなるのだ!冷静になれマーク、奴らは誘っているのだ俺達を死地に飛び込むように」
一触即発の場に、緊張感が増してゆく。普段おおらかな二人が、ここまで感情を爆発させるのはとても稀だ。
しかし勇者の思いは、ネラフィムもソロも痛いほどわかる。
それ故にマークの羽交締めを緩め、二人は勇者の肩入れをすることに決めた。意固地な向こう見ずな勇者に。
「ヤクトバーグ、勇者の意見ももっともだよ。私達の為に犠牲になっていい命なんてないんだから、救援にいこう!今度は私達が一肌脱ぐ番よ」
「ヤクトバーグの旦那、あんたの意見は常に正しいが、今回に限っては俺はマークの側にまわるぜ!なにより悪に正義が屈する事は、あってはならない!」
「ぬぅ…、マークに感化されおってからに、馬鹿者共めが。わかった多勢に無勢だ、好きにするがいいさ。リューティスもそれでよいな?」
「はい!私達は、いつも一緒です」
満面の笑みで答えるリューティスに、思わず面食らうヤクトバーグ。
どこか晴れ晴れとした表情を浮かべ、ハンベルニア城内へと急ぐ一行。
途中、避難通路の一角を爆破しようとする部隊を説得し、一緒になって城内奪還を目指していた矢先、勇者達は信じられない光景を見た。
ハンベルニア城守備隊が二つに分かれ、お互いに攻撃しあっていた。
そればかりか異変はそれだけでは終わらずに、途中から一方的な虐殺へと変わっていった。
妙な音色を響かせる者達が、そんな彼等をせせら嗤っていたのを目撃し、勇者の沸点は限界をむかえた。
「貴様らの仕業かーーっ!」
ラッパの聖遺物を扱う者に向けて、勢いそのままに聖剣を振り下ろすマーク。
それをコルトは、身をよじりながらに、聖遺物を優先して防御し、マークの動きを観察していた。
「いきなりなんて酷いな〜勇者君、仮面が割れてしまったよ。お気に入りなのにさ、けどさけどさいい余興でしょ?人というのは本当に、観察に飽きないよ。君も他人の為に命をかけるなんてさ、心境の変化かい?それとも偽善?博愛主義者とかなのかい?」
「うるさい!全部だ!惨いことをしやがって、…聖剣よ我が意を示せ!悪を討ち滅ぼす力を俺にかせっ!」
眩い光がたちこめ、聖剣からはより一層の力の波動が脈動する。
「あちゃーあれは危なそうだ、人形達!勇者と聖人達に突撃なさい、恐がることはないさ、君達は必ずや天に召され光の神と一つになり、輪廻転生の輪の一部となって生き続けるのだから」
「ボァァオォォーーッ!」
「キャッキャッキャッ!」
「クスクスクスクス!」
「あひゃひゃひゃ、ふひひひ!」
操作された兵隊達が、勇者達に殺到するも、聖人達が一刀のもとに斬り伏せていき、その生命を刈り取ってゆく。
「せめて彼等の生が苦痛で終わらぬように光の神様、どうかお救いください」
「珍妙な技つかいやがって!」
礼儀正しく祈りを捧げるリューティスに、悪態をつきながらに人々を処理するソロ、救えなかった生命に黙祷を捧げながらに集中する。
最後まで残っていた、操られていたハンベルニア守備隊が全滅し、勇者はさらにコルトとの距離を詰める。
「お前らは悪だ!サマエルの為と言いながらに、好き放題している。勇者の名の下に断罪する。楽に死ねると思うなよ、死んで詫びろ!」
「まぁ勇ましい、流石は勇者君!けど、なんでそんなに怒るのか理解できないよ私は?そもそも彼等は君らにとって他人だろ?それは路傍の石と大して変わらないと思うな、ねぇどうして?」
「…⁉︎貴様ぁぁーっ!」
クスクスと嗤うコルトに、冷静さを失いながら、力任せに攻撃するマーク。
それをカバーする聖人達も、今はマークと同じ思いであった。




