出口なき旅路
勇者達一行は、天秤部隊『彗星』の追跡を振り切ることに成功した。
そして安全な場所まで避難すると、帝都を立つ際に取り決めた信号弾を打ち上げ、付近に潜伏していた部隊と合流し、オフィーリアとルドルフ麾下の城へと落ち延びていた。
「いやはや、命あっての物種ですな!しかし行商隊達の犠牲が不憫でなりませぬ、勇者様方、敵は魔族ではなく天秤部隊であったのは真ですか?にわかに信じ難いのですが、何故ですか?」
恰幅の良い、脳筋武将が豪語する中、マークは事実のみを語る。
「それは私もわからない。しかし独断ではなかった、指示を受け、統率された部隊の動きに感じたのだ。判断が遅れていたら、この場に全員生き残れなかっただろう。末恐ろしい相手さ」
「それに天秤部隊の者の何人かは、人間離れした化物だったよ。大柄な白い奴や、四足歩行の奴もいた。指揮官のクモにいたっては、羽根が生えたんだ」
淡々と事実だけを述べるマークに、聖人達が補足説明をしていく。
「聖女イズマイルの皮を被った大天使サマエルは、幾つかの私兵を組織していると聞く。聖堂騎士団に天秤部隊、それに人形部隊に殉死隊の四つだな」
「そんなにあるのかよ!後半の二つなんか聞いたことないぞっ!おいっヤクトバーグ、お前本当にっ…をぐっ⁉︎」
順を追って話すヤクトバーグ卿に、茶々を入れるソロ卿を、強制的に黙らせるヤクトバーグ卿。
重い一発をもらい、身をよじるソロ。
そんな二人を嘆息しながらに、生暖かく見守るリューティスとネラフィム。
「聖堂騎士団は表の顔で、天秤部隊は裏の顔ね。人形部隊に殉死隊は、サマエルの実験部隊というところかしら、そうよねヤクトバーグ卿?」
「すごいネラフィ!博識なんだね〜、私全然知らなかったわ!」
「べっ…、別に大した事ないわよ!」
リューの手放しの賞賛に、狼狽えながらに照れを隠すネラフィ。
しかし周りからはバレバレだという事実に、本人だけがまったくもって気づいていなかった。
「勇者様方は、大変仲がよろしいですな!かたや帝都では、ルドルフ・オフィーリア将軍派と、聖女派とで激しい実権争いが起きてるそうで、嘆かわしい事ですよ本当に…」
コンコン
「なんだ?今は勇者様方とのご歓談の最中である。用事なら後にせよと申した筈だ、私は忙しいのだ!」
いきなり身も蓋もない事を言う城主に負けじと、伝令も声張り上げ対抗する。
「城主様急ぎの用事です!指示を仰ぎたく、天秤部隊の者が数名この城を臨検させろとごねているのです。今は番兵が事実無根だ、根拠がないと突っぱねていますが、時間の問題かと…」
「左様か、では私が出向く。仮に話がこじれたら、私の合図で天秤部隊の者を斬りすてよ。大恩ある勇者様方を弑虐しようなど、片腹痛いわ!きな臭い聖女の狗なぞ恐るるに足りんわ!」
「…城主殿済まない、恩にきる」
「嫌ですよマーク様、決心が鈍ります。お礼はこの窮地を脱してからに。部隊を選抜せよ、対談場所に潜ませるのだ!」
城主と勇者が密談している中、番兵と天秤部隊の兵士達とが問答を繰り返し、緊張感が高まっていた。
その天秤部隊の一団の中には、以前グローリアスの隣にいた、糸目の軍使の存在も確認できていた。
「強情ですね皆さん、職務熱心もほどほどにしてもらわないと、私達がお叱りを受けてしまうのですよ?貴方方は私達を通し、城内に入れてくれればいいのさ。あまりにしつこいと、余計な勘繰りをしてしまうよ?」
どこまでも不遜な軍使に対し、番兵達の怒りに火を注いでいく。
「何を言うか⁉︎」
「我らが怪しいとでも?」
「そもそもお前達にそんな権限はないだろう?早々にお引き取り願おうか!」
口々に罵り合いが始まる中、城主に連絡をお願いしていた伝令が帰ってくる。
「城主様がお会いになるそうだ。入れ、天秤部隊の者よ。我らが主が、君達の問いの答えを聞くそうだ!」
「まったく、時間は有限なんですよ?さっさと始めたいのだよ、理解してくれて光栄かな番兵君達」
「ちっ…早く進め!」
城主指揮の元、天秤部隊の手の者との、あまりにも高圧的な対談が始まろうとしていた。




