サマエルの意思
帝都フェルテネーブルにて、報告を受ける大天使サマエル。
天秤部隊のクモからの報告に、怒りを覚えながらにもほくそ笑んでいた。
勇者達の逃走先は、マークや聖人達に所縁のある場所、もしくは御使いを頼り、イールガル近郊に身を寄せるはず。
後者の可能性は限りなく零に近い、であるならば前者一択であり、場所の特定は容易になる。
「クロスフィア、勇者達は存外しぶといね。勇者の悪運が私の策に勝ったようだ、けどね私の考えに同調できないのなら、不必要な存在として叩くまでだ。天秤部隊に加えて、人形部隊を投入しようと思う。君の検体達のデータ取りがはかどるんじゃないかな?」
「それはありがたいサマエル様!そのような機会を与えていただけるとは、早速検体達の最終調整をしにむかいます。不甲斐ない結果では、サマエル様に顔向けができませんので。」
クスクスと笑うサマエルに、砕けた態度で応じてみせるクロスフィア。
観察対象である勇者達に、自分達の製作した玩具達が、どこまで通用するのかが話題の焦点となりつつあった。
紛い物達が本物達を凌駕する瞬間を目にする為に、用意した演出であり、娯楽でもあり、暇潰しでもあった。
もはや彼らにとって、他人の人生がどうなろうと微塵も気になどしていなかった。それどころか自分達の都合で他者を巻き込むという、傲慢な存在だった。
「ところでシルベスタ、ナナイを知らないかな?どうにも姿が見えないのでね。まさかとは思いたいが、律儀にも勇者達に加勢にいって、そのまま合流したのではないだろうね?」
「はっ、自分がサマエル様に謁見を求めこの場に来る際に、ナナイの居室を覗いた際は、既にもぬけの空でした。恐らくは現地に向かったものかと…」
「まったく、生真面目さが裏目に出たなナナイの奴め、離反して叛逆するのなら、勇者達同様に滅せよ。大事の前の小事だ、慎重にな。もしも改心して赦しを乞うのならば、ナナイの罪は免じ、同じ天使としての立場に戻すとも伝えなさい。苛烈さと寛容さは、時に表裏一体なのさ。ただし勇者達の罪は免じない、如何なる理由であろうとね」
「はっ、そのように万事徹底します!」
「我が君の仰せのままに…」
イズマイル聖女の姿で語る、大天使サマエルの意思。
あまりにも怒りを内包した声色に、天使のクロスフィアとシルベスタは、身の震えを覚え暫く顔を伏せていた。
「そうそうクロスフィア、人形部隊の首尾はどうだい?聖槌と聖盾、あとはえっーと、…模造品達だな。彼等の調整次第では、出発を調節するが、まだ時間はかかりそうかい?」
「はいサマエル様、あと数日といったところです。聖人達は問題ありませんが、模造品達がやや手こずっておりますゆえ、暫しのご猶予を頂きたく」
「いいでしょう、調整の時間を与える許可をだします。ただし、もし模造品達が半端者達の集団なら、クロスフィアわかっているよね?」
「はい!必ずやっ!」
サマエルに見据えられ、決意を新たにするクロスフィアとシルベスタ。
サマエル達と勇者達が、さらには魔族達をも巻き込みながらに、再び相見える時間が刻一刻と迫っていた。




