幕間 ツクラレシ天使達
天秤部隊の兵士達、表向きは聖女イズマイルのいる中央教会直轄の部隊であり、ネルト帝国の軍集団とは別の指揮系統の組織である。
その実態は、大天使サマエルの私兵といってもよかった。
自身の邪魔になる存在、追従しない者、気にくわない存在を端から順に始末させてきた存在こそ、天秤部隊であった。
サマエル自身の命令により、本来は守護すべき人族や憎むべき魔族達が、次から次に粛清されてゆく。
犠牲者達の嘆きや悲しみには耳をかさず、全ては理想の為に…
今日もまた、新たな指示がサマエルより発令され、それを淡々と受け入れる天秤部隊の者達。
新たな命令、それは人類の希望の星であるはずの今代の勇者の抹殺、及び追従する聖人達の掃除も含まれていた。
もはやかつての友であり、理解者であった星詠みの巫女の言葉は届かず、サマエルは歪んだ思想に囚われていた。
「可愛い可愛い子らよ、今代の勇者達を殺しなさい。暫くは飼い殺しにするはずだったが、もう彼らは用済みだ。御使いと通じ、余計な知恵を身につけたに違いないから。私の楽園には不要、人選ややり方は君達に任せる」
「「お任せを、我らが主人!」」
聖女イズマイルの姿の大天使サマエルが、低いような高いような少年の声で、指示を出してゆく。
『凶星』を率いるサソリ
『遊星』を率いるヘビ
『彗星』を率いるクモ
天秤部隊の三部隊は、ロート山脈を囲むように陣を敷き、勇者の動向を部下たちに探らせる。
「本当に来るのか?勇者達が消息不明になってはや数日だろう?別の場所に行ったのではないか、ヘビよ?」
「いいやサソリ、焦るでないぞ。彼らはこの山脈の何処かにいる。情報収集とは、常に忍耐との戦いだ。五感を集中させ、目標に意識を向けるのだよ」
「うんうん、そうよねヘビ!彼らは此処にいるはずよ、絶対そうよ!わざわざ御使いが、勇者達を別の場所に招くはずがないんだよ。必ず、必ずいるはず」
山間の獣道を見張るヘビに、真っ直ぐに切り拓かれた国道を見張るサソリ、そして道無き道を辿るとふんで、林の細道を見張るクモ。
そもそも彼らは、大天使サマエルと天使クロスフィアの研究成果の結晶でもあり、揺るがぬ忠誠心を核に、感情や知識を肉付けした。
来るべき管理された世界の住人達のプロトタイプであり、雛形でもあった。
今までの実験結果で産まれたモノ達は、魂の定着が上手くいかず、空虚な存在に成り果てた木偶や、感情のないモノ、さらにひどいモノになると、破壊衝動に駆られた不安定なモノなど、欠陥品だらけであり実用になり得ないモノで溢れた。
そんな欠陥品達を凌駕する存在こそが、人造天使であるクモ達であった。
生きた人と死者の魂を強制的に植え付け、偽りの知識に記憶を内包させることで、定着実験は完成をみた。
そこからさらに各々に能力を付与する事により、戦闘力の向上にも成功し、模造品達を作製・複製する目処がようやく整いはじめたともいえる。
堕落の力を付与したクモ。
汚濁の力を付与したヘビ。
悪逆の力を付与したサソリ。
天使の性質とは、まるでかけ離れた力を三者三様に身につけた人造天使達。
彼らの行動をつぶさに観察し、行動記録を部下につけさせ、そこからさらにより良いモノを創る種を見つける作業に、大天使サマエルはのめり込んでいた。
悪魔の所業である事を、サマエル自身すらわからぬままに、平然と…。




