刺客
野営地で一晩明かした行商隊達とマーク達、一人の行商隊のメンバーが早朝に、顔を洗いに小川に向かおうとテントから出ると、一面見知った顔の死体がそこかしこに転がっていた。
「…な、なんだこれは、皆!なにが…どうなった…がっ」
あまりにことで動転する行商隊に、止めをさす天秤部隊の兵士達。
「サマエル様の為に…」
「サマエル様の為に…」
「サマエル様の為に…」
「全てをサマエル様へ、忠誠の証を、背教者達に罰を、死の報いを…」
「異端に死を、あまねく者に恵みを!」
仮面をかぶった、逆さ十字の外套を着た天秤部隊の兵士達が、口々に聖書の一節のように、繰り返し、繰り返し唱えては、殺戮を行っていく。
正常な目の者はおらず、その瞳は淀んで、濁りきり負のオーラを放っていた。
朝食の準備をする者や、疲れて眠りこけている者、酔っ払った者、等しく命を奪っていく。
そこに統率者の声が響く。
「はいはいみんなー、残すは本日の主賓達である勇者と聖人達よ!彼らも異変には気づいているはずよ、ヒュプノス、デレルネス前へ、始めなさい…。遠慮はいらない、無慈悲に、冷酷に、残酷に全てを壊してしまいなさい。主人より授かりし本来の姿で」
呼ばれた二人の体躯は、みるみる膨れ上がり、人の皮を突き破り、白いツヤツヤした別のなにかに変貌する。
目や鼻、口に耳もなくなり、茹で卵のような顔に、筋骨隆々の二体の人外がそこにはいた。
頭上には、天使の輪が浮かんでおり、背中からは、小さな羽根も生えていた。
「目標を確認、勇者マーク及び聖人達、罪状は、敵である魔族と内通…。大変に許し難き行為、許容は不可、更生の余地無し、これより救済する」
「速やかに主上の敵を排除せよ、生かしてはおけない、抹殺せよ、殴殺せよ、撲殺せよ、失血死させよ、断裂させよ、圧殺せよ、破裂せよ、はかいせよ、ハカイセヨ、ハカイセヨ、ハカイセヨ、ハカイセヨ…ハカイセヨ…」
「「ハカイセヨ…!」」
二人の言葉が機械のような合成音声のようになり、人の言葉とは違うモノを感じさせていた。
「サマエル様の為に…」
「サマエル様の為に…」
「サマエル様の為に…」
「サマエル様の為に…」
「サマエル様の為に…」
周囲に展開する天秤部隊の兵士達も、手に銃火器や、弓矢をつがえ、大砲に弾を込め、一斉に攻撃を開始する。
ヒュプノスとデレルネスは、跳躍すると、落下エネルギーを乗せながらに力任せに勇者達のいるテントを破壊する。
ズズン…
くぐもった音が辺りに響き、テントの跡から、マーク達一行が姿を現した。
攻撃を実行したヒュプノスの右腕を、マークが切り裂きながらに。
「クモさん、これはいったいどういう了見だい?サマエル様直轄の部隊の君達が、どうして僕達を襲うのかな?」
「これはこれはマーク、お久しぶりでございますね。失礼ですが我々と御同行願えますか?我らが主人であるサマエル様が、いたく勇者様方を心配されています。どうぞこちらへいらして下さいませ…」
ぶっきらぼうなマークに対して、表面的には慇懃な態度のクモ。
しかし顔が笑っていない、それどころか、腰に吊るした剣を抜き放ち、ヒュプノスとデレルネスを援護するような姿勢をみせていた。
それに応じるように、ネラフィム卿とヤクトバーグ卿も武器を構える。
「下手な芝居はよしてくれるクモ?貴方がここにいる以上、サソリやヘビもいるのでしょう?私達は異端認定されたのかしら?だからといって、簡単にはこの首渡さないわよ!」
「まさか早々にお主達と戦うことになろうとは、因果なものだな…。一緒に魔族と戦ったのが、つい昨日の事のようだよクモ、本当に懐かしい」
「あらあら?耄碌したのかいヤクトバーグ?まぁ私は君達と戦うのを楽しみにしてたんだよ、だからあまり私をがっかりさせないでね?ちゃんと対応してみせないと、君達本当に…」
「死んじゃうからさ…」
天秤部隊『彗星』の猛攻が、なんの前触れもなく始まり、マーク達は大いに苦戦することとなる。
天秤部隊『彗星』率いるクモの部隊の動きは、どこまでも敏速であった。




