包囲者達
行商隊の荷馬車のほろの中で、目を覚ます勇者一行。
自分達にかけられていた変装の魔法は解除され、本来の姿形となっていた。
そんな勇者達を不安気に見つめながら、体調などを気遣う長殿と従者達。
彼らは魔都での行商を終え、ちょうど帰路に着いていた所であった。
驚く事に、勇者達が行方をくらませてから数日が経っており、あの空間の異質さが際立つ形となった。
長殿曰く、勇者達が突如として消え、最悪の事態も考えたそうだが、周辺の魔族達は平穏そのもので、それがまた不気味であったという。
「マーク様方、よくぞご無事で!勇者様方がいなくなり、本国の者になんと申し開きをすればよいか思案しておりました。まずは一安心です!」
「あぁすまないな長殿、面倒をかけてしまって。自分達もなかなか現状の把握に苦労したよ、まったく摩訶不思議な体験をしたもんだ。あれをどのように説明していいもんか…」
まるで自分の世界に閉じこもったマークに、困惑気味な表情の長殿。
「…?」
「いやこちらの話だ長殿、独り言だと思って軽くあしらってほしい。私達のいない間は、他になにか変化はあったかな?些細な事でも構わない」
「へぇ…、特に変わった事はなにも。魔族の商人達が羽振りがよく、少々商談に熱がはいった事ぐらいですかね」
「なにかありましたか勇者様?」
「そうかありがとう、いやなに大した事ではないのだ…」
どうにも要領の得ないマークに、長殿の心配顔が半日近く続いた。
一方で他の聖人達はというと、大勢の従者達に質問攻めにあっていた。
ソロ卿の、御使いを見たという発言に対し、どんな容姿か、背格好は、話し方など話題につきそうになかった。
「ソロ卿、御使いを見たのですか?」
「ヤクトバーグ卿はどうです?御使いは我々と似て非なる者なのですか?」
「ネラフィム卿にリューティス卿、教えて下さいよー!私達は娯楽に飢えているんだから!」
四方八方からの質問に、さすがの聖人達もたじたじとなり、騒ぎの元をつくったソロ卿に対しては、その夜の野営地で、ヤクトバーグ卿とネラフィム卿の説教と夕飯抜きの制裁を受けていた。
「俺は別に間違った事は言ってないぞ!こんな仕打ちあんまりだ!」
「貴方という人はまったく、昔から変わりませんね。言動には気をつけなさいと、いつも言っているでしょう」
「ソロ卿よ、ネラフィム卿の言う通りだ。本音と建前は別にせよ、行商隊の皆とは気心知れた仲なのはわかるがな。時と場合によっては窮地に陥る…」
「…。」
「おや?返事が聞こえませんよソロ卿?明日の朝食と夕飯も抜きましょうか?ソロ、返事はどうしたの?」
「…わーたっよ、俺が悪かった」
「ん、宜しい!素直さと謙虚さを今後も忘れないようにしなさい」
「…小ジワ増えろネラフィ…」
ソロ卿の余計な一言に、ネラフィム卿の堪忍袋が爆発し、数発の鉄拳制裁がなされたのは言うまでもない。
翌朝真っ赤に腫れた顔をしたソロ卿が、仏頂面で、悟ったような顔をしていた。それをリューティスに咎められると、転んだの一点張りだった。
「勇者一行を発見!至急クモ様に報告、展開中の全部隊は付近に集まれ、警戒態勢をしきつつ、狭めよ!」
「周囲の行商隊達は?」
「決まっているさ、行きがけの駄賃さ!何人死のうが変わらない、全てはサマエル様の為に」
「疑わしきは罰せよか、怖い怖い…」
「サマエル様の為に…」
山中の山合いから、勇者達の行商隊を覗く天秤部隊の兵士。
自身の上官であるクモに連絡をとり、付近の天秤部隊の包囲網を狭めていく。
ゆっくりと着実に、逆さ十字の外套を着た集団が音も無く集まり、サソリ、ヘビ、クモの号令を待っていた。




