人魔対談(御使い視点)
勇者達がくる少し前、リーゼと業魔将達は対談場所の準備をしていた。
ああでもない、こうでもないと、話し合いが紛糾しているエンリエッサとイシュガル。
「なぁエンリエッサ、別に対談場所などイールガルの一室に場を設ければいいんじゃないかな?わざわざ別空間に隔絶した場所を作るとか、手間じゃない?」
リーゼが不思議そうに呟く中、エンリエッサが隔絶空間をつくる意義を唱える。
それはもう熱心に力説するエンリエッサ。
「なにをおっしゃいますリーゼ様、天使達の監視の目を盗むには、これぐらいしないといけません。奴らは神出鬼没なのですよ?敵を欺くには、それ相応の準備が必要になってきます!これは必須事項なんです」
「そうですよリーゼ様、大事な対談で天使が介入するという事態を考慮せねば、そのためにも転移させるタイミングと、人数設定を間違わぬように細心の注意をですね払うわけですよ…。だいたいリーゼ様はですね…」
珍しく意見の合うエンリエッサとイシュガルにリーゼは内心驚いていた。
だが、イシュガルの話が長引くの防ぐために、リーゼは話を変えることにした。
「しかし、魔道と魔術は奥が深いな。複合術式を使えば、これほどまでに我が父の心象風景の再現が可能とは、恐れ入ったよ。君達は実に優秀だよ」
「いえ、まだまだですよ…」
「そんなリーゼ様、光栄です!」
「うむ、エンリエッサにイシュガル、その調子で存分に励め!俺はここで不測の事態に備えるとしよう!」
手伝いもできなければ、特にやることのないバンネッタは、愛刀である大刀を研ぎ始める始末であった。
エンリエッサとイシュガルは、空中に複雑な紋様を描きながら、周囲の景色を構築し、秘密基地でも作るように楽しげだ。
バンネッタはとうとうやる事が無くなり、胡座をかきながらにぼんやりしている。
リーゼも所在無さげにウロウロし、自分の原初の能力で一人遊びをしている。
「バンネッタ、私達暇ね…」
「そうですねリーゼ様、ですが暇なのも偶にはよいではないですか、リーゼ様、一つお願いを聞いてもらっていいですか?」
「ん?なによバンネッタ?」
「リーゼ様の原初の能力で、この大剣に焔をまとわり付けることは可能ですか?」
「できるわ!一時的だけどね」
言うや否や、直ぐ様バンネッタの大剣に触れ、能力を行使するリーゼ。
バンネッタの大剣は徐々にだが、薄っすらと熱と焔を帯びてゆく。
「おっ、おおー!流石はリーゼ様!これは紛れもなく魔剣ですよ、
悪戯を思いついた子供のように、バンネッタとリーゼは笑い合い、即実行に移す。
即席の焔の魔剣を仰々しく構え、素振りなどを行い、満足気なバンネッタ。
「我が名は、バンネッタ!御使いリーゼ様を守護せし一振りの剣、今この身は貴方様への思いに焦がれております!」
「やめてバンネッタ、貴方と私とでは身分も立場も違うわ、貴方の思いは重荷よ!どうか私への思いは断ち切って…。貴方は貴方自身の人生を歩んで欲しいの…」
「リーゼ様?」
「「……⁉︎」」
いつの間にやら寸劇を始めた二人だが、作業が終わった他の二人が生暖かい視線を飛ばしているのに気付き、そそくさと空間の隅に避難するリーゼとバンネッタ。
心象風景の再現が思いのほか早く済み、時間が余ったので、今度は擬似心象風景に置く、椅子について、エンリエッサとイシュガルの熱い議論が始まり、徐々に白熱していった。
「だからなイシュガル!リーゼ様にはこの深紅の椅子こそがお似合いなのだ、質実剛健を表す君の椅子もいいが、ここはイシュガル、是が非でも私の意見を聞いてほしいな!」
「…ふむ、君の意見もなかなかに見事だが、私の提案するこの椅子こそが最上であるとお伝えしよう。過度な装飾などいらないのだ、内包された情熱を体現するこの椅子こそ素晴らしいのだ!」
「…ねぇバンネッタ?あの二人、心象風景を再現するよりも、多くの時間を椅子の談議で使ってない?意外とあの二人は凝り性だと思うのよ私…」
「まぁそうですね、自分は別に座れば何でもいいとおもうのですが、彼らなりに意見があるのですよ」
バンネッタの傍には、そこら辺に転がっていた質素な椅子がちょこんと置いてある。
議論が脇道に逸れ、二人が白熱するのを横目に、リーゼはお茶をすすりながら茶菓子をつまみ、バンネッタは素振りなどして各自が好きな時間を過ごしてゆく。
やがて議論も落ち着き、各自それぞれに椅子を置くことに決着し、勇者一行用に五人掛けのソファーも用意され、その時を待つ。
イリトバ城塞へと続く道の途上に、勇者達一行が通りかかると、エンリエッサとイシュガルは、精神を研ぎすませ転移術式の構築に取り掛かる。
場所と空間を繋ぎ
人数を指定し
一時的な通路の構築
複合的な術式を発動するタイミング
これらの大術式を、二人で行ってしまう技術力の高さに、改めてリーゼは代えがたい人材だと認識した。
バンネッタが何故だか、得意げなのが少々気になったが。
やがて擬似心象風景の空間に、勇者達一行が到着すると、おもむろにリーゼは語りだすのだった。




