人魔対談(勇者視点)
不気味な空間に突如案内された勇者一行は、激しく狼狽していた。
「なにここ?あまりに不自然よ、こんなにも月が近くて紅いなんて!ここは、一体何処なの?私達は山の中にいたはずよ…」
一行の気持ちを代弁するかのように、リューティスが発言する。
自分達が先程まで歩いていた山道の感触は既になく、無機質なタイルが見渡す限り広がる荒涼とした無機質な空間。
そればかりか、自分達を瞬時に別の場所に転移させるなど、余程の術者がこの場所に存在することを暗示していた。
深紅の革張りの椅子に座る御使いの周囲には、いつの間にか業魔将である悪魔達が囲む様に着席していた。
中心にはどういう原理か、五人掛けのソファーが用意されており、ゆったりと座れるようなつくりであった。
「ここは、我らが父であり、原初であり、始祖たる闇の神の心象風景の一部よ。私達にとっては、とても安らぐ場所なんだよ…」
「まぁ、かけなさいマーク」
リーゼが、この場所の説明を述べている中、状況が理解出来ず、しどろもどろなマーク達一行を、待ちくたびれたように呟く一人の業魔将の悪魔が、苛立ちを隠さずに呟く。
「…リーゼ様をあまり待たせるな、大事な時間を割いてこの場所にいらっしゃるのだ。まずは用件を申せ、話はそれからだろう。目的と意図を率直に話せ、人の子よ…」
書斎にあるようなシックな椅子に座る山羊頭の悪魔が、読書をしながらに先を促し、勇者達に席に座るように告げる。
その表情は無表情で、感情の起伏は感じられず、どこか事務的な感じがする。
「お前達は何を企む?何故こんな真似をする、質問ならこっちが先だ!」
山羊頭の悪魔の発言に対し、血気盛んなソロ卿が噛みついてみせるが、他の業魔将である紫髪の小柄な悪魔が、そんなソロ卿を睨み、剣呑な気配を発していた。
「黙れよ…、お前達の事情なぞ知らんし、知りたくもない。イシュガルの質問に答えなさい、訪問の目的はなにか?その理由によっては、我ら業魔将三柱が実力を行使する。慎重に、正確に答えなさい…」
髑髏を象った退廃的な椅子に座り、小振りな黒い刀を指でいじりながら、緊張感を滲ませる勇者達を眺めていた。
戦いの匂いを感じ、質素な椅子の上で、落ち着きのない様子な鎧の悪魔もいる。
鎧の隙間から、幾つもの目が蠢めく…。
「言わせておけば悪魔風情が!」
「ソロ卿よさないか!貴様の短慮な発言も些か問題だ。我らの目的はあくまで対話だ、今日は戦いにきたのではない、そこはまず理解してもらおうか」
「なんだ、戦わんのか?」
「あらあら、しっかりした御仁だこと。脳筋坊やもこれぐらいできないと、まぁ全てはリーゼ様次第だがな…。バンネッタ、今は剣は必要ないよ、そう今はね…」
「なんだっ…をぐ⁉︎」
ソロ卿の脇腹に、鋭い拳がヤクトバーグより放たれ、悶絶するソロ卿。
ヤクトバーグ卿の筋道立てた発言に、ひとまずほっとする勇者マーク。
話を聞く前からご破談になり、戦闘という事態はどうにか回避できたようだ。
「勘違いないように言うがリーゼ、我らは星詠みの巫女様のお告げに従い、この地を訪問した。君の真意が聞きたい、どのような意図でこの大陸に災いをもたらすのか?本当に私達と君達とは、分かり合えないものなのか?教えて欲しい、御使いリーゼ」
そこまで言い切り、リーゼの言動に注視していると、おもむろに立ち上がりこちらに近づいてきた。
「…ふふふ、マーク…」
ゆっくりとだが着実に、互いの獲物の届く範囲を超え、さらに至近距離にまで近付き、マークの顔を覗き込むように、衝撃的な事をリーゼは告げる。
「私の目的は理想郷の建設…」
「魔族と人族、お互いに殺し合う関係だけなんてつまらない、世界を征服するとか、光の信徒共を根絶やしにするとか、とても面倒だと思わない?だから私は選定することにしたの、いるものといらないものを…。庭の枝木を剪定するかのように、丁寧に繊細にね。その果てに待つ理想郷にむけて、どんなに刻をかけようと完遂させる」
平然と述べるリーゼに、自分は寒気がはしる。それはまるで神の如き所業に等しい、擁護できない内容であった。
「しかしだマークお前こそどうする?我らと秘密裏に対談など、大天使サマエルは意に沿わない者たちには容赦がないと聞く。異端認定の烙印を押されれば、お前達の居場所がなくなるんじゃないか?まぁその時は共闘でもするか?嫌われ者同士、前代未聞だけど!私達はいつでも歓迎するよマーク?」
どこまで本気かわからないリーゼの提案に、業魔将達は黙して何も語らない。
ただ、マーク達の様子を見ている。
「ふん、脅しにしては陳腐だな御使い!私達の結束はその程度では揺るがないし
、何よりも星詠みの巫女様の勅命なのだからな!そんな事はあるはずがない」
「まぁ可能性の話さ、もし仮に現実になったら頼っておくれ!」
クスクスと嘲笑を浮かべる、御使いと業魔将達。なにが面白いのか…。
不透明な自分達の行く末に暗雲がかかるように、勇者達の中で、不安と疑惑が胸の内に渦巻く思いであった。




