魔都を目指して(2)
マーク達勇者一行は、一路イールガルを目指していく。
行商隊の従者に変装し、身体的な特徴をなくして、平均的な顔つきをした男女の五人が、まずは北部連盟の中継地点となりつつあるリーゼガルドを横断する必要がある。
帝国からイールガルのあるロート山脈へは、一週間程の行程であり、リーゼガルドまでも五日間程かかる長丁場の道のりであった。
最初の数日は、のどかな田園風景が続く田舎道であるが、ローガルド要塞を通行証で通過すると、徐々に魔族側の領域の風景が広がってゆく。
「うむー、魔族達の生活水準もなかなかに高いな、治安も安定しているようだ。もっと混沌としているかと思ったが」
純朴そうな中年の姿のヤクトバーグ卿が呟くと、目つきの鋭い女性の姿のネラフィム卿が、すぐさまに反応する。
「御使いの治世が良い証拠なのかもね、やはり侮れない強敵ね。民の暮らしにも気をくばるなんてね。」
そこに行商隊の長から声がかかる。
「勇者様方、間もなく魔国の検問所にさしかかります。くれぐれも注意を、そこで通行証をみせて、イールガルへの道標を借りますので」
素朴な青年の姿のマークと、兄弟のような出で立ちのリューティス卿とソロ卿が、揃って同意を示す。
「正門守備隊を担当する守将は、城門の上に鎮座する半人半竜の人外です。その側近のハーピー達も侮れません。彼女達は匂いに敏感なのです。番兵であるオークやオーガ達よりも、厄介であるのは間違いありません。面倒は起こさないように、重ねてお願いします」
「うん、心得た!」
「しかし長殿、なぜそこまで警戒する必要があるのですか?」
「へぇ、交易開始当初の話ですが、小金を稼ごうとした小悪党達が、あの門で一網打尽にされた経緯があるのです。違法な薬物を持つ者や、密入国者を扱う者、相場に虚偽を申す者などが、守備隊の兵士達の制裁を受けたのです。原理はわかりませんが、死を伴う罰だったという話です。以来あの門は、真偽の門と仲間内で呼ばれていますんで…」
「なるほど、眉唾ものの話だな。しかし警戒は必要だなマーク?」
ソロ卿が神妙に発言する中、徐々に城門に近づき、待機中の車列へと並びながらその時を待っていた。
ゴブリンとオークの兵卒が検品作業を行いながら、積荷のリストと照らし合わせせ、イールガルへの通行証明書である小さな銅板を手渡していた。
「よし、問題ないな!馬車の通行を許可する。銅板は帰路に回収するので、返却するように!」
「次の馬車、前へ!」
ジリジリとマーク達の、行商隊の番が近づき、ついにその時がきた。
「次の馬車前へ!積荷は毛皮と香辛料に、衣類で間違いないか?」
「へぇ、毎度どうもご贔屓に!今回は私の弟子を数人実地研修させています!不作法者達ですが、どうかご勘弁を。ところで番兵殿、今回は随分と行商隊が多いようですがなにかおありで?」
「ん?御使い様のご命令でな、色々と物資が入用なのでな!方々に声をかけ、物資を都合してもらっているそうだ」
「それは難儀でございますな、では我々は荷を下ろしに向かいますの…」
行商隊の長がそそくさとその場を立ち去ろうとした時、鋭い声が響く。
「その荷馬車隊待て!少々確認したい事がある、暫し待たれよ!」
紺色の軍服を几帳面に纏ったハーピーと、軍服を着崩した二人のハーピーが囲むように急降下する。
半人半竜の人外の腹心であろう者が、マーク達が変装した従者達に、疑惑の眼差しを向けていた。
ばれた⁉︎
行商隊の長を含め、マーク達一行に緊張感がうまれていく。
「そこの者、フードを降ろし顔を見せてくれ、以前会った事がある匂いがする。よく見せて欲しい」
朗らかに言いながら、手で合図し、周りを兵卒達で取り囲む。
ネラフィム卿が変装した従者を、まじまじと見つめ、やがて解放する。
「すまないな、私の勘違いのようだ。イールガルは遠い、長殿道中気をつけてな。銅板はなくさないように…」
「へぇ、それでは私達はこのへんで」
行商隊の長は、辛くも難局を乗り切り安堵の息を漏らす。
しかしミミイは疑惑を拭いきれず、メメイとヌメイに命令を下す。
「メメイ、さっきの行商隊を上空から遠巻きに監視して。数名部下をつけて!ヌメイは隊長に報告して」
「あいさ〜!」
「敵なのミミイ姉?襲えばよくない?」
「まだわからない、しかしなにか引っかかるのよね。ざわざわするような…」
不安と疑惑が交錯する中、勇者達一行は都市リーゼガルドを抜けていく。




