魔都を目指して(1)
大将軍の一人の何気ない呟きは、すぐさま実行に移されていく。
なにより、星詠みの巫女の願いでもある御使いリーゼとの対談は、帝国の指導者達にとっても願ってもない機会であり、利害が一致したといえる。
近隣諸国にコンタクトをとり、次の定期便に紛れるまで話は進んだが、魔族側に、荷物を点検されたら言い逃れできない状況となってしまう。
なにより馬車のほろの中では、どのみち逃げ場がなく、戦いは避けられない。
「やはりこの案はお蔵入りのほうがいいのでは?策として安易過ぎるよ…」
「むっ⁉︎ではマーク、そなたはこの難局を乗り切る案はあるのか?」
「…いっそ、荷馬車隊の従者達に紛れ、変装魔法でもかけたほうが合理的ではないかな?」
「なっ…⁉︎そんな事…」
簡単に対抗案を出され、暫く固まる南の大将軍、各方面軍の大将軍達は、軍務に関しては抜群の技能を発揮するが、咄嗟の閃きに関してはてんで駄目であった。
素人丸出しの答えをする、帝王の血縁者だが、グローリアスとは別の分家ではあるが、血筋の確かな者であった。
有名な軍属の系譜であるが故に、一般教養や、常識に欠ける弱点もあるが。
ルバルフ・フェルテ・ネルトに負けず劣らずの、堂々たる武人であるオフィーリア・フェルテ・ネルト。
未だに男性社会の根強い軍閥の中、彼女の南方方面軍は、自由の気風が強い。
能力さえあれば、性別に関係なく功績さえ上げれば要職につけ、自身の軍団の強化を最優先に考える武人。
軍議などでは、周囲を惹きつけるカリスマ性を発揮するのだが、ルバルフと同様に、政治が絡むとどんどんと空回りする傾向がある。
「オフィーリア、ここは素直に帝国の知恵袋、レイノルズ卿の知識をお借りしようではないか?」
「さすがは叔父上!盲点でありました、レイノルズ卿是非ともご教授をお願いしたい!マーク、私達の舌戦はこれからよ。まだまだ挽回できるんだから」
「オフィーリア卿、なにか論点がずれてる気がするよ…」
「ええい五月蝿い!マークお前は一言多いのだ、私の気持ちを逆撫でするでない、まったく!」
そんな二人が、落ち着くのを見計らってから静かに語りだすレイノルズ。
「よろしいかな?知恵袋かはわからないが、変装魔法を駆使しても魔族側に看破されると考えている。イールガルに到着する前に関所の役割のある、リーゼガルドを横断するのが最大のネックだ。業魔将の一柱たるエンリエッサの管轄だ、魔術にも精通している難敵である。そこでだ、勇者達には信号弾を持たせ、不測の事態の際には打ち上げてもらう」
「それでどうするのだ?」
「知れた事よ、各方面軍の精鋭を付近に潜ませ、信号弾を合図に勇者達が離脱する時を稼ぐ。しかしこれは、あくまで最後の手段。今回は決戦ではなく、対話がメインだ。後はあちらの出方次第だ、吉とでるか凶とでるか…」
レイノルズの策を聞き、沈黙を破るようにマークが語りだす。
「わかりました、では対話が決裂した際は信号弾を打ち上げます。みんなもそれでいいかい?」
「異議はないさ、マークに従うよ」
「マーク、一人で飛び出すなよ?後ろには皆がいるのよ、それを忘れないで貴方は一人じゃないの…」
「うむ、あとは野となれ山となれだ、よい結果になればよいがなー!ワハハ」
「マーク私はどこまでも貴方の側にいます、私の居場所はこれまでも、これからも貴方の側だから」
最後にオフィーリアが、神妙な面持ちでマーク達に助言する。
「マーク、南にいた魔族の第四軍がまるごと行方をくらませた。御使いとの合流を目指していると思われる。気をつけてくれ、君達の無事を祈っているよ」
「あぁオフィーリア、大丈夫さ!」
二人の仲睦まじそうな空気を邪魔するように、ネラフィムとリューティスのジト目がマークを捉え、真意を問いただすと、後日二人が結託したのはまた別のお話であった。




