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第2話 クラス関係

 電車に乗っている間以外はダッシュし、汗を流しながらも教室に駆け込んだ仁志は、間に合った事にほっと息を吐きだした。

 遅刻なんてすれば空手部でみっちり絞られる。現在空手部を牛耳る師範は枯れ木のような体躯に似合わず、それはそれは立派な突きを華麗に鳩尾に決めてくださりやがるのだ。流石にそれは勘弁願いたい。


(それもこれも、あのアホ兄貴がギリギリまで起きないからだ……!)


 迷惑極まりない義兄への怒りをふつふつと滾らせていた仁志は、やや低めのどこか少年ぽい声に名を呼ばれ、ぱっと顔を上げた。


「おはよう、相上君。ぎりぎりだね」

「はは……まあ、朝はいっつもばたばたでさ。おはよう、西条」

 クラス中の男子のやっかみの視線をこれでもかと浴びながら、仁志は苦笑混じりに頷いて答える。

「そっか。でも、急ぎすぎて事故に遭わないように気を付けなよ」

 語尾に合わせて首を傾げるのは、クラスメイトの西条さいじょう理音りおん。ショートカットが活発そうな印象を与える彼女は、陸上部のホープと呼ばれる瞬足の持ち主だ。


 アーモンド型の瞳とスッキリと通った鼻梁が涼やかな印象を与える彼女は、クラスの人気者。それも男女問わず……というか、女子により人気がある宝塚タイプだ。

 この手の子に手を出すには、女子によって二重三重に構築された狭く高き門を越えなければならず、普通の男子はおいそれと手の出ない高嶺の花である。


「あー、それは気を付ける。昔友達が1人事故って危うく死にかけたし」

「うわー、怖いね」


 そんな理音が仁志に声をかけ、周囲の女子も許容しているのは、仁志と理音がクラス公認のカップルだから……なんて幸せな事情はありやしない。


「事故に巻き込まれるくらいなら遅刻した方がましなんだから、程々にね」

「うん。まあ、それよりもう少し早く家を出るべきだけどな」

「うんうん、それがベストだけど、そうは行かないんだよね」

「そうなんだよな」

(……ほんっと、良い子だよなあ)

 気遣いも出来て、自分の意見ばかり押しつけない。見た目も性格も良く成績も中の上、陸上推薦で入学した期待の星という「天は二物を与えずって嘘ですよ」を体現した少女だ。空手馬鹿で恋愛には余り関心の無い仁志でも、良い子だなあと思う。



 そんな理音が、だ。



「……その、それでさ。お兄さんは、元気かな……?」



 ほんのり頬を赤らめつつもじもじとそんな事を訊いてくるのだから、仁志としては死んだような目でお空の遠くを見やりつつ、頭の中で義兄を3枚卸しにするしかない訳で。



「……ああ、相変わらずかな。メール送ったの?」

「ううん、まだなんだ……」

「兄貴、気さくだから普通に返信すると思うけど」

「こ、心の決心が付かなくて……」

 頬の赤みを増しごにょごにょと言う理音に、仁志は声を大にして言いたい。


(何故あのぐうたらいい加減をカタチにしたような馬鹿兄貴が良いんだ、西条……っ!)

 と。


 そう、仁志にはこれっぽっちも理解出来ない事に、理音は隼護が好きだ。中学時代にここの高校と合同練習をした時に見かけて一目惚れしたとかなんとか。その辺りのエピソードは聞くだけで辛いのでさっさと脳内からデリートした仁志である。

 つまり理音は「好きな人の事を少しでも聞きたい」という乙女心全開な理由で仁志に話しかけているだけなので、彼はクラスの女子から安全パイと見なされているのだ。虚しい。


「……ま、いっぺんメールしてみなって。まずは知ってもらわなきゃ始まらないだろ?」

「う、うん……そうだね。分かった」

 頬を赤らめたままこくんと頷く理音。可愛い。とても可愛いのだが、その可愛さの元があのダメ兄貴への恋心だと思えば、仁志は素直に見惚れられないのだった。


 その時、チャイムが教室に鳴り響く。何となく救われたような気になりながら、仁志は理音に手を振って自分の席に着いた。


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