淑女の交渉
麗佳はうっかり小枝を踏んでしまい、音を立ててしまう。
その微小な音を鉄鋼女神・ヴィルゴⅥは聞き逃さなかった。
「誰ですか?」
シデロスは人間よりも視力(索敵力)が高い。
カメラアイがしっかりとやや遠方にいる、人間の少女を捉えた。
「……見慣れない生命体ですね」
ヴィルゴⅥは麗佳へ接触を試みる。
女性型機械生命体が近づいて来る。通常なら、一目散に逃げるところだろう。しかし、ヴィルゴⅥに敵意は感じない。
第一に攻撃を仕掛けてこない。
武装らしい武装も(最低でも外見上は)存在しない。
麗佳は相手に敵意がないことを察した。それゆえ、落ち着き払った笑みを浮かべてじっと待ち構える事にする。
「ごきげんよう。はじめまして。私、鹿鳴館麗佳と申しますの」
ロングスカートを小さく持ち上げ、麗佳は気品漂う挨拶を示した。
しかし、それは人間にとっての常識。シデロスの世界での常識ではない。
だが、不快な印象は受けなかったため、ヴィルゴⅥもお辞儀をし、礼儀正しく返事に出る。
「私はヴィルゴⅥ。シデロスという種族の一員です」
「では、ヴィルゴさんとお呼びしてよろしくて?」
「もちろんです。……ところで、麗佳さん。あなたはどこから参られたのですか? あなたのような存在を見たのは初めてでして……」
その問いに、麗佳は人差し指を堂々と翳して、気丈にこう語る。
「お互いにとって最も分かり易くいいますわ。異世界ですの」
「異世界?」
「そうですわ。お互い今までの常識では存在すると思ったことすらない、別次元の世界。空想の世界にでも飛び込んでと断言しても過言ではありませんわ」
「今までお互いが知らなかった世界ですか……。なるほど。それなら、合点がいきますわね。でも、どうやってこちらへ?」
「正式な名称および、現象は分かりませんわ。ですが、偶然見つけたワープゲートのようなものを好奇心で潜って来て、今に至る。それが今私に言えるこれまでの経緯ですってよ」
「ゲート……ですか。私も決してこの世界の全てを把握してはいません。そういった場所がどこかにあったのですね。興味深いです。では麗佳さん、そのゲートのある場所へと案内して頂けませんか?」
「もちろんですわ。ただし……」
「?」
「こちらの世界の情報もいただきますわよ? よろしくって?」
気丈。強か。麗佳お嬢様は不敵に笑みを浮かべ、リョウ子氏に手を当て、胸を張った。