我道進とは俺の事だ
ビルとビルの間にある狭い通路にて、小柄で細身な中学生は巨大な5つの人影に包まれていた。
「俺達さぁ~、今お金に困っているんだよなぁ。だから、金貸せよ」
髪を染め、ピアスを付けている大柄な男子中学生5人が金を要求する。何とも分かり易い不良による恐喝である。
小柄な中学生は恐怖に震えながら逡巡する。大人しく渡すべきかを。正直、どうせお金を返す気はないのだろうし、渡したくはない。だが、回避する術は無い為、八方塞がりな現実に絶望をしていた。
―――その時であった。
「下らねぇんだよコラ」
左端の不良が突如蹴り飛ばされ、それにより残りの4人もドミノ倒しの様に倒れて行った。
突然不良を一蹴したのは堂々と涼しい顔をしていたこの男。大山中学の制服を纏う我道進であった。
不良達は憤りながら立ち上がる。小柄な中学生はおろおろしつつも今がチャンスだと判断し、この隙に逃げ去った。
「あー? 何だこのクソチビは」
「害虫がウザイから潰したくなった。そんだけだ」
ダウナーな口調で進は不敵に笑んだ。
「チビの癖に生意気なんだよぉ!」
「ザけんな! お前ら、こいつシメるぞ!」
リーダー格の男の一声で不良5人は一斉に殴りに掛かる。
「囲めば勝てると思っている訳かぁ。なら……」
進は軽快に地を蹴り、右端へ移動。そして電光石火の勢いで右端の不良の脚部目掛けてスライディングキックを叩き込んだ。
先程同様、端から順に不良達のドミノ倒しとなった。
「ラッシュ掛けるぜぇ」
進は壁を蹴り、ターンする。次に、目前の不良1名の後ろ首を掴み、残りの不良らへと投げ飛ばす。今度はボウリングのピンの如く、不良達が跳ね飛んだ。
しかし、進から見て最も後部に位置した不良はダメージが少なく、即座に再起。単独で進へ殴りに来る。
「このぉ!」
ジャラジャラと指輪が数個付いた不良の拳が迫る。だが、進には慌てる様子など微塵にも無く、ニヤリと余裕を顔で語っていた。
拳が進の顔に到達する寸前、新たな影が割り込む。
鈍重な打撃音が轟いた。不良の指輪付きナックルは何と、味方の頬に直撃していたのだった。
「し、しまった……」
進は手前にいた不良の腰を掴み、其の不良を盾にしたのだった。
「忍法、同士討ちの術でゴザル。な~んてな」
進は盾にした不良から手を放し、すぐさま蹴り飛ばす。仲間を殴ってしまい、動揺している不良へとぶつけた。
5対1。その上、進よりも長身で精悍な体格の相手との対決。常識的に考えれば明らかに不利な戦況。しかし、進には精巧に組み立てられた策があり、それを駆使して勝利へと着実に事を運んでいる。
常に囲まれないようにする。狭い場所を利用して相手を纏めて翻弄出来るように立ち振る舞う。何より、5人同時に動かせないようにピンポイントで数名を一時的にながらも潰す。
この戦いの主導権はもはや進だけのものになっていた。終いには進は不良リーダーのズボンを後ろからズリ下げ、そのままズボンを引っ張って不良リーダーを転倒させた。
「おっらぁ!」
豪快にズボンを引っ張り、不良リーダーは露わになった股間をコンクリート上に叩き付けられてしまった。不良リーダーは声ならぬ声で無様に悶えた。
「多分、この辺にあるハズだよなぁ」
ズボンを手に取った進はズボンのポケットを物色する。
「おっ。あった」
取り出したのは携帯電話であった。進は不良達に見えやすいよう携帯電話を翳す。
「俺はこの携帯でフルチン状態のテメェの写真を撮り、この携帯のアドレスの登録先へ適当に写メを送る事が出来る」
「や、止め……」
不良リーダーは狼狽する。
「……だが、それを阻止する方法がある。それは何だ思うか?」
「何っ?」
股間を両手で隠す不良リーダー以外の4人は身構える。
「おっと。力ずくは止めておけ。こっちにはズボンが、人質ならぬ物質がある。妙な真似したらこいつのズボンをビリビリに破っちまうぜぇ? 頭の悪い判断はするもんじゃねぇ」
「じゃあどうしろって言うんだよ……」
「んな事も思いつかねぇのかよ。しょうがねぇな。特別に教えてやるかぁ。よく聴け。俺みたいなやつと二度と関わらないようにするには俺に目を付けられないようにすれば良い訳だ。簡単な話だ。恐喝だのイジメだの下らねぇ真似すんなってこった。分ったか?」
「お、おう……」
進は背を向け、そのまま去っていく。
「ちょ、おい! 俺のズボン……と、パンツ!」
暫く進んで進は進はズボンをコンクリート上へと落とす。次いで不良らへ顔を向ける。
「駅前の交番にテメェの携帯を預けておく。後で取りに行け。じゃあな」
そう言い残し、進は携帯電話を握ったまま、この場を今度こそ去った。
交番を後にし、悠々と進は歩いて行く。
「いやぁ~。俺ってばアルティメット頭イイ~♪ ナイスタクティクスって奴だな」
ハッハッハとご機嫌に笑う進であった。が、目の前に偶然学習塾があるのを発見し、しけた笑いを溢す。
「あ~あ、学校の勉強なんかよりも頭の回る人間を評価して貰いたいモンだぜ。学校の勉強なんてどうせ大人になったら忘れるんだし。『バカモ~ン、学校の勉強は努力のトレーニングだ』とかって言われたりするけど、な~んか回りくどい感じがして納得出来ないんだよなぁ」
ぶつくさ言いながら歩き続けていた。進は角を曲がり、公園前へと向かう。
「んんっ?」
眉間に皺が集まる。不可解な光景を目にした。
光が溢れている――。公園にあるトンネル穴から。
「何だありゃ。ちょい見てみっか」
頭が回る以前に怖いもの知らずのこの男はまずはこの不可解に閃光へと接近を試みた。
「ほぅ。こいつは……」
トンネルの穴の中。光の放つ先。それは果ての見えぬ異空間であった。
進は近くにあった小石を拾い、異空間へと投げてみた。
小石はブラックホールに吸い込まれるかのように異空間の中に呑み込まれて生き、その奥に開かれた都市のような場所へと吸い込まれたいくのだった。その様子を進はしかと目撃した。
「な~るほど。こりゃ別世界へのゲートみたいなモンかぁ。面白い。ちゃちゃっと準備してから明日、行ってみっか」
ニヤリ。まるで欲しい玩具が手に入ったかのような嬉々とした様子で進は駆け出していくのであった。