第五話:金曜日の朝と黒板のメッセージ
金曜日の朝、教室の黒板には意味深な言葉が書かれていた。
「もうダメかもしれん」
白いチョークで、やたら綺麗な字。
しかも、右下に小さく「?」が付いていた。
彼がそれを最初に見たとき、
口にしていたあんぱんの中身が一瞬止まった(気がした)。
「……誰だよ、金曜の朝から終末宣言みたいなこと書いたの……」
彼は思わず周囲を見回すが、誰も犯人らしき動きをしていない。みんな普通に席に座って、普通に金曜を迎えている。
ただ、ケンタだけがやけに深いため息をついて言った。
「いや、むしろ真理じゃない?金曜日って、気力ギリだし」
彼はあんぱんの食べかけを持ちながら、深くうなずいた。
ミナミは、登校してすぐに黒板を見て立ち止まった。
(もうダメかもしれん、?)
この一文の曖昧さに、彼女の探偵魂(非公認)がくすぐられる。
《文末の「?」が心理的不安定さを示唆。自信喪失か、単なるネタか。だがなぜ金曜。なぜ黒板。なぜチョークで。》
ミナミの思考はすでに高速回転モードに入っていた。
ちなみに彼女は、ノートに「校内謎事件ファイル」というコーナーを作っている。
今回の件は、間違いなくNo.7:黒板の絶望文として記録される予定だ。
そのころ、オオタくんは、ただ黒板を一目見ただけで、
「あー、先生の字だな」と即答した。
筆跡でわかるのかって? わかるのだ。
彼はすでに、先生たちの板書の書き癖を把握しており、黒板の左下に書かれた「ちょっと斜め気味の“し”」を見て、
「ああ、これは数学のカトウ先生ですね」と判断していた。
そしてその直後、カトウ先生が入ってきて言った。
「いや〜、すまんすまん、昨日のテスト採点してて徹夜してたら、なんかテンションおかしくなってさ〜、つい書いちゃった☆」
教室がざわついた。
ケンタがつぶやいた。
「カトウ……あんたが一番ダメかもしれん……」
金曜日の本音
放送が止まった昨日に続き、今日は黒板に謎の終末文。
だが、それが事件でもトラブルでもないという事実に、なんとなく皆が安心した。
彼は、あんぱんの最後の一口を食べながら思った。
「まあ、ダメかもしれんって書いた時点で、まだダメじゃないってことだよな」
ミナミは、「先生も人間だったか……」とメモを取りつつも、
「このレベルなら毎日書いてほしいかも」と思っていた。
オオタくんは、机の上で物理の教科書を開きながら、
「むしろ、毎日ひとこと黒板に書いてほしいな。“先生の心の一句”ってコーナーで」と本気で考えていた。
今日のまとめ(ゆるめ)
絶望的メッセージが黒板にあると、わりと盛り上がる。
金曜日は、先生も生徒もだいたい限界。
「?」をつければ、なんでもちょっとだけ柔らかくなる。
ミナミのノートにはまたひとつ事件が追加された。
オオタくんは、今後“黒板筆跡鑑定士”として何かに目覚めるかもしれない。




