第四話:木曜日の朝と消えた放送委員
木曜日の朝、彼は目覚ましに勝利した。
アラーム音より先に目を覚まし、堂々と時計を止め、二度寝を始めた。
……30分後に負けた。
「うわあああああああああ!!!」
彼の叫びが、家中に響いた。もはやそれが、近所の“毎朝の放送”と化している。
学校に着いたとき、教室にはすでに数人が集まっていた。
でも、いつも聞こえるはずの朝の校内放送が、今日はなかった。
BGMもない。アナウンスもない。ただ、シーン……という音が、心にやさしく突き刺さる。
彼は言った。
「もしかして、地球終わった?」
ケンタが真顔で答えた。
「地球が終わったら、お前が学校に来れてるわけないだろ」
彼はそれに深く納得し、教室の椅子に腰を下ろした。
そのまま机に突っ伏したのは、地球が終わってなくても、疲れていたからである。
一方そのころ、ミナミは放送室のドアの前にいた。
なぜなら彼女は今、「今日の放送がない理由」という謎に引き寄せられていた。朝の放送は、時に空気よりも自然に存在しているが、なくなると案外、気になる。
ドアは開いていた。
中には誰もいなかった。
そして、マイクの上には――食べかけのどら焼きが置かれていた。
「………………は?」
ミナミの冷静な脳が、思考を一瞬停止した。だが、すぐにメモ帳を取り出し、書き込む。
《事件の可能性:高。食べかけの和菓子、現場に放置。しかも放送室。謎は深まる。》
ミナミの頭の中では「名探偵ごっこBGM」が流れていた。
そのころ、オオタくんは、図書室で今日の一冊を吟味していた。
選ばれた本のタイトルは――
『もし校内放送が止まったら』
まさかのピンポイント。
オオタくんは本を開いて、真顔でつぶやく。
「……参考にならない」
なぜなら中身は、恋に悩む放送委員と転校生のラブコメだったからである。
仕方がないので、本を戻し、窓の外を見た。
そのとき、風に吹かれて、誰かが書いた紙がふわっと舞い込んできた。
そこにはマジックでこう書かれていた。
「おれは自由になる」
オオタくんは静かに納得した。
「……放送委員、辞めたな」
真相
放送がなかったのは、放送委員のアヤカさんが、突発的に「もうやだ!」ってなって、
どら焼き片手にどこかへ逃げ出したからである(※たぶん)。
だがそれを知る者は、まだ誰もいない。
彼は今日も昼休みにパンを落とし、
ミナミはその瞬間を見逃し、軽く悔しがり、
オオタくんは「今日の事件はノーカウントだな」と独り言をつぶやいた。
教訓(?)
・放送は、あるべきときにあるべき。
・どら焼きは、最後まで食べるべき。
・地球は、意外とちゃんと回ってる。
・「三人称視点」は、今日も絶好調。




