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三人称視点  作者: 反町樹
学園物語
2/18

第二話:火曜日の昼とカップゼリー

 彼は、今日も給食のデザートを落とした。

 落としたのは、プルプルと揺れるオレンジゼリー。容器がふた付きの透明なプラスチックだったのが救いで、床に落ちても中身は無事だった。

 ……ただし、開ける前なら。

 彼は、ゼリーの蓋をちょっとだけ剥がして、中の空気を抜こうとしていた。すると、隣の席のケンタに話しかけられた。

 「なあ、おまえって、バナナで朝食済ます派?」

 その瞬間、彼の指は蓋の力加減を見誤った。

 ぱんっという軽い破裂音とともに、ゼリーの一部が宙を舞い、机、床、制服の袖にまで分散して着地した。

 彼はしばらく言葉を失ったが、次にこうつぶやいた。

 「……昨日のほうがマシだったな」

 ゼリーの香りだけが、彼の敗北を甘く包み込んだ。

 彼女――ミナミは、ちょうどその様子を横目で見ていた。

 「うわー」と口には出さず、心の中で思うだけで済ませた。ミナミは、基本的に人前ではあまりリアクションをしない。けれど、心の中のツッコミはいつも活発だ。

 昨日の朝に彼がくわえていたバナナ。

 今日の昼にはゼリーが爆発。

 彼女はノートの隅にこっそりこう書いた。

 《観察記録:今のところ、週の前半だけで2件の“食”関連事故。金曜までにあと3件は期待できる。》

 ミナミは科学クラブ所属。実験と記録が大好きである。

 その少し斜め後ろの席、オオタくんは、ゼリーの爆発前から、その予兆に気づいていた。

 彼はゼリーの蓋を剥がす瞬間、彼の指が少し汗ばんでいたことを目撃している。汗ばんだ指では、プラスチックの薄い蓋の“加減”を誤ることは、十分にあり得る。

 さらに言えば、ケンタくんの声の大きさも問題だった。あれは不意に驚くに足る音量だった。

 彼は内心でこう思っていた。

 「……ゼリーって、意外とデリケートなんだな」

 オオタくんはその日、図書室で「ゼラチンの科学」という本を借りていた。

ある意味、事件

 日常とは、事件が起こらないことを前提として進んでいく。

 でも、それは“誰かにとって”の話だ。

 食べ物を落とした彼にとっては、今日はちょっとした事件だったし、

 観察していた彼女にとっては、データの更新日であり、

 静かに見ていたオオタくんにとっては、知的好奇心のきっかけとなった。

 だからこれは、三人称視点で語られる――

 ほんの小さな“非日常”。

 そして、こうしたささやかなズレや違和感が、彼らの日常を少しずつ、少しずつ、変えていくことになる。

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