第二話:視点の交差点
ミルクティーの朝は、いつもと変わらず静かに始まった。紗季はお気に入りの窓際の席に腰を下ろし、パソコンの画面に目を落とす。今日こそは物語のクライマックスを書き上げようと心に決めていた。
一方、健一はカウンターでいつものブラックコーヒーを注文し、新聞の片隅に目をやる。退職してからというもの、彼の生活はゆったりと流れていたが、どこか物足りなさを感じていた。
翔太は店の奥の席で、スケッチブックに向かっていた。今日のテーマは「人の表情」。カフェに集う人々の何気ない仕草や笑顔を描き取っている。
三人の視線はそれぞれ違う方向を向いているが、店内の空気は一体感に包まれていた。
その時、カフェのドアが開き、見慣れない女性が入ってきた。彼女は店の中を見渡し、紗季の隣の席に腰を下ろした。彼女の名前は美咲。街の観光ガイドをしているという。
美咲はふと翔太のスケッチブックに目を止める。「素敵な絵ですね」と声をかけた。
翔太は少し驚いたが、「ありがとう。人の表情を描くのが好きなんです」と答えた。
その言葉を聞いた紗季は、パソコンの画面から目を上げて言った。「私も人の心を書いています。物語の中でね。」
健一も話に加わりながら、「人の視点って面白いよな。第三者から見ると違ったものが見えてくる。」
美咲は微笑みながら言った。「視点が変わると、世界が広がる感じがしますね。」
四人は初めて本格的に言葉を交わし、それぞれの視点が交差し始めた。
紗季の物語に、翔太の絵が彩りを添え、健一の人生経験が深みを加え、美咲の視点が新しい視野を開く。
それぞれの物語が少しずつ重なり合い、彼らの時間はかけがえのないものになっていった。
三人称視点は、一人称よりも豊かな世界を映し出す鏡のように、彼らの物語を映し続けていた。




