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三人称視点  作者: 反町樹
学園物語
1/18

第一話:月曜日の朝と食パン

 彼は今日も寝坊した。

 目覚まし時計はちゃんと鳴ったし、アラームも五分おきに三回鳴ったのだが、彼はそのすべてを、夢の中でうまく処理してしまったらしい。夢の中の彼は、アラーム音を「背景音楽」として認識していた。

 起きたのは午前7時43分。学校まで徒歩15分、出発のリミットは7時50分。

 時間はないが、彼には“日常の危機管理能力”がある。つまり、食パンをくわえて走ればなんとかなるという、根拠のない自信だ。

 だが現実は甘くない。食パンは昨日で切れていた。

 彼は戸棚をあけ、代わりになりそうなものを探す。バナナ一本と、少ししけったクラッカー。しかたなくバナナをくわえ、ランドセルを背負って飛び出していった。

 ……と、ここまでが今朝の彼の話だ。

 一方、彼女は7時ちょうどに目を覚ました。彼女の名前はミナミ。同じクラスの女子で、彼の斜め前の席に座っている。

 彼女は彼のことを「ちょっと変な人」と思っている。だが、その「ちょっと変」なところを、なぜか毎朝探してしまう。

 今朝は彼がバナナをくわえて登校してきたのを見て、「あれは新しいギャグなのか、それとも本気なのか」と、給食の時間まで悩むことになる。

 ちなみに、ミナミはパンよりごはん派だ。

 もうひとり、観察者がいる。

 それは教室の隅、誰も気づかないような位置に座っているオオタくんである。

 彼は特に目立たない。成績は中の上、運動はまあまあ、性格は温厚。ただ、彼にはひとつだけ特技がある。人のことをよく見ているのだ。

 観察力というより、観察癖に近い。今日も彼は朝から「彼がくわえていたバナナが、熟れ具合としてはギリギリだった」ことに気づいていた。

 オオタくんはふと思う。

 「バナナくわえて走ってくる奴って、漫画の世界だけかと思ってたけど……リアルにやる人、いたんだな」

タイトルの意味

 この物語には、主人公がいない。

 語られるのは「彼」「彼女」「観察者」。それぞれの視点が、すこしずつ交差し、すこしずつズレていく。だが、そのズレこそが“日常”というものだ。

 たとえば、誰かが走ってくるのを見て「急いでるんだな」と思う人もいれば、「食べながら走るって器用だな」と思う人もいる。

 たとえその人の名前を知らなくても、視線の先にはたしかに“誰か”がいる。

 そう、この物語は——

 「三人称視点」で語られる、なんてことのない、ただの一日。

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