バッティング
ふわっと思いついて書いたものです。
なんでこれ書いたっけ?
(親父……今日こそ仇をとるよ……‼)
心の中で固く誓い、俺――蟹沢治は車を走らせる。
『熊、出没注意!』と書かれた看板を通り過ぎると、山奥の民宿『柿の木荘』に辿り着いた。
――今から俺はここで、人を殺す。
標的は猿山大将。
とある自然保護団体のリーダーである。
しかし、自然保護団体と言うのは名ばかりで、実際には過激なパフォーマンスで、重要文化財や美術品を破壊したり、イベントの妨害を行う迷惑系動画投稿者だ。
俺の父親もそんな猿山の被害者だ。
奴の団体のメンバーが画家であった親父の個展で、作品にペンキをぶっかけて回ったのだ。
当然、警察に通報し、団体には弁護士を通じて提訴した。
しかし、猿山はそんなメンバーをあっさりと切り捨てた上、賠償金を払わずに雲隠れ。
親父はこの事件が切欠でスランプに陥り、苦しんだ末に先日、自ら命を絶った。
直後、ほとぼりが冷めたとばかりに猿山の団体は活動を再開。
今も多くの人間の人生を、面白半分で狂わせている。
(親父にあんな仕打ちをしといて……こんなことを許しておけるわけがねぇ……!)
「絶対に殺してやる」と殺意を固めた俺は、猿山を殺害するための計画を立てた。
奴は最近「野生動物の保護活動のため」と称して、この『柿の木荘』を拠点に活動している。そこで、奴が留守の間、部屋にトラップを仕掛け殺害するのだ。
俺は偽名を使い、チェックインすると、隙を見て猿山の部屋へと向かう。
そして……
「……あの、みなさん。なにやっているんですか?」
「………………」
……部屋の前で先客たちと鉢合わせた。
爆弾らしき物体をベッドにセットしている最中の男。
同じく恐らく毒が塗ってある針を窓枠にセットしている女。
トイレに混ぜてはいけない液体が時間差で混ざり、気化させる装置をセットしているこの民宿のオーナー。
そして、天井にくっつきスタンバイ中の「あなた、世紀末からいらっしゃいました?」と思わず尋ねたくなるような筋骨隆々太眉の大男。
各々が自身の考えたトリックの準備をしようと、猿山の部屋に潜んでいたのだ。
「……一旦、話をしましょう」
そう言って一同、ロビーに集まり、各々の事情を説明することに。
「…………じゃあ、自己紹介から始めますか」
そう言って、流れで仕切り始める俺。
全員現行犯のため言い訳不可能な上、目的は猿山の殺害なのは明らかなので、とりあえず、各々の事情を話し、今後のことを話すことにする。
俺が自身の身の上を話し終えると、今度は爆弾をセットしていた男が語り始めた。
「俺は栗林弾、元登山家だ」
彼はかつてエベレストの制覇も成功した登山家だったが、ある日、猿山の悪ふざけで崖から転落し、命こそ取り留めたものの、その時のケガが原因で、登山家生命を絶たれたそうだ。
「私は蜂須賀真衣。私の姉と猿山は婚約者だったわ……」
続いて毒針の女が自己紹介。彼女の姉は婚約者と言っていたが、実際は金だけ貢がされるような間柄だったらしい。
結果、裏切られた末、猿山の動画でのやらかしの責任を擦り付けられ、家族と財産と職を全て失った。
「わしは馬場牛雄。知っての通りこの民宿のオーナーだ」
続いて、手の込んだ装置を作っていたオーナー。
彼は猿山がこの山荘を拠点にして、他の観光客や地元の猟友会に嫌がらせを行い、客足が遠退いたことに激怒。殺害計画を練るに至る。
そして……
「……ウー・スーだ。見ての通り」
太眉の男はそこで区切ると、コーヒーを一口飲み、窓の外の景色を眺め「ふぅ……」一息吐いて――
「殺し屋だ」
「溜めんな」
なぜ溜める必要がある。っていうか、殺し屋とか見れば分かるよ。
だって、一人だけ画風違うもん。天井に張り付いてたもん。オーラがやべぇもん。
「あの……ウーさんはなんで、猿山を殺そうとしてるんですか?」
「そんなもの依頼されたからに決まっているだろう。俺は気に入った相手の依頼しか受けんからな」
「いや、知らないけど……」
「依頼主はかつて猿山に貸したゲーム機を借りパクされ転売された男。その気持ちと殺意に満ちた目が気に入ったので依頼を受けた」
「そんな理由で!?」
いや、たしかに貸したゲーム、転売されたら頭に来るけど……
なにも殺し屋に依頼するほどじゃないだろう。自分でやれ、自分で。
「まぁ、そういう訳だ。前金ももらっている以上、俺は奴を殺害するのを譲る気はない。お前らは大人しく手を引け」
「そういわれても、こっちも引くわけにはいかないんだよ!」
「俺もだ!」「私も‼」「わしもだ!」
ウーの上から目線に、他のみんなも「そうだそうだ‼」「そうよ‼」「あいつだけは殺してやらんと気が済まん‼」と反発する。
するとウーは「静かにしろ、でないと……」と、懐から銃を取り出した。
「ひっ‼」
「ま、まさか、その銃で……」
「そのまさか、さ」
そう言ってウーは取り出した銃をそのまま、宙へ放り投げる。
そして、手刀で一閃し、バラバラの残骸へと変えた。
「貴様らもこうなるぞ?」
『いや、銃使えよ‼』
「俺は殺しに道具は使わない主義なんでな」
『じゃあ、なんで銃出した!?』
ウーの奇行に全員がツッコミをいれた。
その後もしばらくわいわい言っていたが、次第に猿山がチェックインする時間が迫ってきた。
ここで騒いでも時間の無駄だろうと察し……
「なら、全員で協力して殺そう」
と提案。どうせ、目的は同じなのだから協力した方がいい。
足がつかないように協力して、トリックを企てれば、警察にバレる可能性も低くなるだろう。
俺の提案に、他のみんなも同意してくれた。
「いいだろう。お前たちの覚悟、気に入った。特別に俺も全力を出そう」
そう言ってウーも承諾。
俺たちは限られた時間の中、持てる知識を出し合い、計画を立てた。
ウーの監修の下できた計画は、おそらく名探偵でも現れない限り、暴かれることはないだろう。
あとは猿山が来るのを待つだけだ。
全員が緊張しながら、猿山の到着を待っていると、不意に電話がかかってきた。
オーナーが慌てて電話に出て、しばらくすると、力の抜けた表情を浮かべて戻ってきた。
「どうしたんですか?」
するとオーナーは気まずそうな顔で、驚くべき一言を告げた。
「……猿山が、熊に襲われて死んだ」
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