9.ライバルの本音
同じ頃、黒崎竜也は自分のアパートで配信機材のメンテナンスをしていた。
「チッ、モンスターとの対話だと?馬鹿馬鹿しい」
彼は昨日から桜庭隼人の配信を何度も見返していた。
確かに、スライムたちの反応は自然に見えた。CGにしてはあまりにもリアル過ぎる。
だが、黒崎には信じられなかった。
彼は幼い頃からダンジョンで修行を積み、数々の強敵と戦ってきた。配信者一族の出身として、常に実力で全てを勝ち取ってきた。
戦わずして勝つ?
そんなものは逃げでしかない。
「桜庭...明日、君の化けの皮を剥いでやる」
しかし、黒崎の心の奥底には、小さな疑問が芽生えていた。
もしも、桜庭隼人の能力が本物だったら?
もしも、本当にモンスターと心を通わせることができるとしたら?
その時、自分の今までの配信は何だったのか。
強者が弱者を一方的に蹂躙するだけの、虚しい見世物だったのか。
「そんなはずはない」
黒崎は首を振った。
「力こそが全て。それが配信者の世界だ」
でも、心の中の小さな声は消えなかった。
美桜も、自分の部屋で明日の配信について考えていた。
彼女は隼人の配信を見て、本当に衝撃を受けていた。
今まで当たり前だと思っていたことが、全部覆された気がした。
モンスターは敵。
倒すべき存在。
それが常識だった。
でも、隼人の配信を見て分かった。
モンスターにも感情がある。家族がいる。守りたいものがある。
人間と何も変わらない。
「私、今まで何をしてたんだろう...」
美桜は過去の配信を思い出して胸が痛くなった。
どれだけのモンスターを、理由も聞かずに倒してきたのか。
どれだけの家族を、引き離してきたのか。
でも、隼人と出会って変わることができた。
明日は、新しい配信の形を示したい。
戦いではなく、理解を。
破壊ではなく、共存を。
「隼人さん、ありがとう」
美桜は小さく呟いた。
「あなたに出会えて、本当に良かった」